美食・酒・ひと


レモン・わさび・マヨネーズが新鮮な「ソフトシェルクラブの唐揚げ」
洒落たバー・カウンターやオープン・キッチンを備えた、一見日本料理店には見えないスタイリッシュな店内で、純和風テイストの小皿料理、日本酒、焼酎を出す――というのが、世界のジャパニーズ・レストランの最新トレンド。レストラン・ビジネスの最先端を行くシドニー・サリーヒルズにオープンした「トコ(Toko)」も、そんな日本料理の新機軸をロンドンから直輸入したダイニング・バーである。
入口のそばにあるバー・カウンターには、ウィスキーや、ジン、ウォッカなどのスピリッツの豊富なセレクションとともに、多種多様な日本酒、焼酎がズラリと並んでいる。酒飲みの琴線に触れる、シドニーでは見ることのないような珍しい銘柄も多い。店の奥には、広い寿司バーと、揚げ物、焼き物が調理されるオープン・キッチンの目の前で食事が楽しめるカウンター、通称「炉端」がある。梅の木をモチーフにしたような、可愛いらしいランプが立ち並ぶ長いダイニング・テーブルには、グラスと小皿のセットが綺麗に並べてあり、心地よいBGMが心を癒してくれる。
「日本のビジネスマンたちがよく行くような、『おかえりなさい』と温かく出迎えてくれる『居酒屋』がコンセプトなんだ。疲れを十分に癒してほしい」と、マネージャーのバートウィストル氏。「Toko」とは、日本語の「床」のこと。居心地のよい、安心してリラックスできる場所を意味しているのだという。メニューに目を通して驚いた。「茄子田楽」や「ヒラマサ湯引き」、寿司もマグロ、サーモンの定番のほかに、トロ、サバ、キス、シマアジ、サヨリ、ウニなど、オーストラリアでは珍しい通好みのネタが用意されているのだ。
とてもフレンドリーな店員たちに一番人気のメニューは何か聞いてみた。蛇足だが美形のウェイターが多いのもこの店の特徴である。彼ら曰く、よく出るのは「ソフトシェルクラブの唐揚げ($15・90)」だそうだ。ソフトシェルクラブは、柔らかい皮ごと全部食べられる、脱皮したてのワタリガニ。オーストラリアのアジア系のレストランでは欠かせない人気食材である。華やかに盛られたソフトシェルクラブと、アーティスティックなラインを描くレモン・わさび・マヨネーズは見た目にも美しい。口に入れると、まずは、爽快なレモンの香りが口と鼻を通り、その後にマヨネーズの濃厚な旨味がしっかりと決まり、仕上げに思い出したかのようなワサビの風味が鼻に来る。このソースをサクサクに揚がったカニにたっぷり付けてしていただくと、普通のソフトシェルクラブとはどこか違うことに気付く。揚げ物なのに、妙にサッパリしている。その秘密は衣にまぶしてある青海苔にあった。
さて、爽やかなレモンの香りと、ほんのりと漂う磯の香りを楽しめば、熱くなった喉を冷ます飲み物が欲しくなった。数々の魅力的なカクテル(例えば、エスプレッソとクリーム・デ・カカオを使った『喫茶店マルガリータ』=$18)、ワイン、スピリッツがメニューに並んでいるが、ここはやはり日本酒を注文したい。「日本酒のソムリエ」バートウィストル氏が、ソフトシェルクラブによく合うと勧める、静岡産の「鬼ころし(720ミリリットル・ボトル$58)」を常温でいただく。フルーティーな香りとは裏腹に口あたりはとてもドライで、ズッシリとした存在感がありつつ、後味が辛口なので食欲がそそられる。揚げ物にはピッタリだ。
ローカル客が主なターゲットであるにもかかわらず、旨い肴で日本酒が飲めるコンセプトは、とにかく日本人のコアな酒飲みにもうれしい。懐郷の念にかられたのか、バートウィストル氏と日本の話題に花を咲かせながら、心地よく酔いしれた夜だった。

焼き物、揚げ物が目の前で調理されるオープン・キッチン

静岡産の「鬼ころし」

Toko
490 Crown St.,
Surry Hills NSW 2010
Tel: 02 9357 6100
Web: www.toko.com.au
ランチ:木〜金12pm〜2.15pm、ディナー:月〜土6pm〜10pm

案内人
マネージャー ポール・バートウィストル氏
Manager/Paul Birtwistle
ロンドンからスカウトされたポール・バートウィストル氏
イギリス出身。来豪前は、世界的にも有名なロンドンの日本食レストラン「Zuma」でバー・マネジャーを務めていた。そこで出会った日本人の影響で日本酒の魅力にハマる。勉強熱心で、日本文化を心から愛する彼は、自分で得た知識を人に伝達するのがとても上手い。温和な雰囲気だが、日本の文化や日本酒のことになると目をキラキラさせて情熱的に話してくれる。はるばるオーストラリアからヘッドハンティングされ、新規オープンしたこの店のコンセプトを支えている。
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