翁さんラーメン店主 翁和輝 | Cheers インタビュー

Cheers インタビュー

 

北九州の幹線道路の一角で暖簾を掲げ、産声を上げた翁さんのラーメン人生。苦労の末に『九州ラーメン総選挙2008』第3位に選ばれると、行列店へと変貌を遂げた。その後、自分の腕を信じて東京に渡り、板橋で自家製麺屋を出店。『ラーメンデータベース』で全国1位を獲得したのちに、今度は新宿、もう一度板橋、早稲田と展開。日本での10年を経て海外に渡り、カンボジアで2店、そしてシドニーでの出店に成功し、立ち上げたラーメン屋は現在8店舗を数える。今回弊誌では、いまシドニーのラーメン業界で噂の翁さんの生き様を追いながら、彼のラーメンへ対する情熱に迫る。

 

左:背油醤油ラーメン $11.80 右:相撲ラーメン $11.80

 

 

 

 

チャイナタウンの『翁さんラーメン』は、とんこつ、鶏醤油、和風ダシ、濃厚ソースベースのスープをもとに九州本場のとんこつラーメンをはじめ、二郎系の相撲ラーメン、背油ラーメンなどバラエティに富んだ品揃えが評判を得ているが、翁さんがシドニーで作るラーメンのコンセプトとは。

オーストラリアには全国から人が集まっていて、北海道は味噌、九州はとんこつ、関東は醤油と皆さん食べてきたものが違うので、好みがバラバラですよね。なので極力お店に来てくれた方が美味しいと思えるものを作っていきたいというのが、コンセプトと言えばコンセプトですね。

 

プノンペン、日本、シドニーと豚の味がそれぞれ違うから面白い。

豚の味は全然違います。とにかくオーストラリアの豚はちょっと太り過ぎだな。プノンペンの豚はクオリティが粗いというか、品質が安定しない。当たりの骨もあれば悪いのが回って来る場合もある。オーストラリアは安定はしているけど全体的に肥えていて、そのまま使ったら油が多いから、かなりこってりしたスープになるんです。その点、日本の技術はやっぱり素晴らしいですよ。丁度良く脂の乗った豚が安定して入る。管理が行き届いているんでしょうね。

 

日本と同じ味を求めない、その土地でのオリジナル。

日本と同じ味を海外で出すことはできないけど、そこはあえて求めないんです。その土地で手に入るもので、試行錯誤して上手いものを作る。だから8店舗すべて、作り方が違って違う味。その土地にあったやり方を見つけ出す過程が面白くて、見つけたときの喜びがたまらない。まったく日本の味を意識せずにやっていますよ。

 

30歳までに飲食の世界に入ると決めていた翁さん。29歳の終わり頃に兄が「いい物件があるから何かやろう」と誘ってくれたのが、ラーメン業界に入るきっかけだった。

まだ若かったから、この物件でサッとやって儲かる商売ってなんだろうな、と頭を悩ませていました。その時期ラーメンはテレビでかなり露出していたので、「あ、ラーメンか! ラーメンやろう!」と、軽い勢いで始めました。

 

待望の一軒目『ちゅるるちゅーら』は、北九州の幹線道路の交差点の一角。向かいがガスト、隣がリンガーハットと大手に囲まれた立地で、半年後には閉店の危機が訪れる。

屋号は兄貴が決めたのですが、全然うまくいかなかったですね。開けてから半年間、まったくと言っていいほどお客が入らなかった。12月終わり頃に「もーだめだ! もう辞めるか」と、兄貴と相談していたら、突然テレビ局から電話が掛かってきて。「美味しいと評判なので、来年あたまの特番で出てください」とオファーをもらいました。もう閉めようってときに「神様来た!」って。半年間、試行錯誤を重ねて味も徐々に変化して、美味しく仕上がってきていたので、きっと飽きずに通ってくれた常連客がクチコミしてくれたんだと思います。

 

列車のコンテナ3本を並べた店構えの当店。1車両目を客席、2車両目を厨房、3車両目をスープ室兼スタッフルームとして使っていた。

1年間くらいを住み込みに近い状態で働いていました。風呂はズンドウにお湯沸かせて、体にかけて済ませたりして。いや、いい経験でしたね。楽しかった。始めた頃はお客さんは来ないので、日夜どうにか旨いスープを作ろうと必死でした。なにしろ自分の味を信じるしかなかったですからね。好きでやっているから苦じゃなかったですね。

 

テレビ局の取材後、底辺から鋭角に、九州を代表するラーメン屋へと上り詰める。

35席の店舗で、当初1日2万円だった売り上げが、取材後には一気に30万円まで上がりました。その後、FBS福岡放送の『九州ラーメン総選挙2008』でも第3位に選ばれて、お店は軌道に乗りました。

 

オープンから4年経った頃、兄に店を譲り東京へ渡った翁さん。板橋でラーメン屋を出すことになるが、東京へ移る動機は何だったのだろうか。

自分はあちこち行きたかったから。若かったから一ヵ所にとどまらず色々やりたかったのと、自分の信念を貫いて、自分がどれくらいまでできるのか強く知りたかった。10年後には海外で出店したいという思いもあったので、『ちゅるるちゅーら』は兄貴に譲りました。いまでも兄貴はそこで店をやっていますよ。

 

板橋に登場した5.5坪で席数7席の伝説の名店『自家製麺 CONCEPT』とは。

この店は台湾留学で知り合った友達と一緒に始めました。つけ麺を売りにした店で、俺は屋号はどうでもよかったので、バンコクのサウナのなかで彼に決めてもらったんです。ここから製麺機を入れて、本格的に自家製麺を始めました。狭かったので、皿洗って、振り向いて、つけ麺を作ってと、何でもひとりでこなすスタイルでした。そこもテレビが入って、『ラーメンデータベース』で全国1位に選ばれました。うまく行っていたんですが、結局色々とあってパートナーに店を譲って、自分は新宿へと移りました。

 

その後、新宿と板橋に『ワンズワンズ』、早稲田に『オールドマン』の3店舗をそれぞれ立ち上げる。

まず新宿ですが、お客さんが僕の名前を読めずに、「ワンさん、ワンさん」て呼ぶので、じゃあ『ワンズワンズ』でいいやということで決めました。お客さんの要望に合わせて幅広くつけ麺を作りましたね。こってり、あっさりと。その店に、板橋『コンセプト』のお客さんが来店し、「板橋に戻ってきて、またつけ麺屋をやってくれ」と志願され、『ワンズワンズ』板橋店を出店しました。その後、早稲田に『オールドマン』を出しました。〝翁〟は老人なのでその屋号にしたんです。学生街だったので、安くてボリュームのあるものを出してましたね。3店平行してやってて、忙しかったですけど楽しかったです。

 

10年の修業を経て、カンボジアに出店。

10年前に『ちゅるるちゅーら』を始めたときから、10年後は海外で出店することを目指してやって来ていたので、『ワンズワンズ』は親戚のおじさんに譲って日本を出ました。ネットで情報を探したらカンボジアでラーメン屋を出店したい会社を見つけてカンボジアへと向かいました。しかしその会社とはうまくいかず帰国を考えていたときに、カンボジア滞在中に知り合った現ビジネスパートナーと一緒にラーメン屋をやることになりました。

 

現地で苦労したこととは。

カンボジアは豚の骨の値段が日本の3倍強するんです。ラーメン屋の経営形態で骨に経費をそこまで捻出してしまうと、他の食材に経費がかけられないという厳しい状況でした。そのなかでどうやって旨いラーメンを出すのかっていう。10年やって来た経験から応用して、なんとかお客に出せる味までたどり着きました。

 

味に関して一生納得することはない。常に進化し続けるクオリティ。

味はオーストラリアのお店でも常に納得はしないです。もっと美味しくなるんじゃないか?どうすればいいんだろう?と毎日考えています。趣味じゃないけど、本当に好きでやっていることなので、四六時中ずっと試行錯誤しています。休みの日にもついついお店に顔を出してスープを見たりして。だから、現行メニューで味がどんどん変わっていくことは当たり前に起こります。自分がラーメン屋をやっている以上、味は永遠に変わっていくんでしょうね。

 

ビジネスを越えた情熱。

ぼちぼち生活できて、お客さんが喜んでくれるラーメンが作れているから、本当に毎日楽しいですよね。それが好きでやりたくてやってるわけですから。この年になって来ると仕事としても考えるようにもなってきましたが、本質的にビジネス思考にはならないんだろうな。

 

ラーメンの道に入る前は、俳優業をしていた翁さん。映画やCMなどに出演して華やかな日々を送る。

『キッズリターン』が一番大きな仕事でした。ポスターに載るくらいの役柄でしたよ。実は、俳優の世界に入って1ヵ月もしないで決まった話だったんです。千葉に調理師免許が取れる高校があって、そこを卒業したらとりあえず好きなことやろう、ってことで、アルバイト情報誌で仕事を探しました。テレビに出て金が儲かったらこれは楽だなと思って、履歴書を送ると、丁度その事務所でビートたけしの映画のオーディションがあって、「ちょっと出てみる?」って勧められて。たけしさんが決めてくれたお陰で、役をもらえました。
そうそう、キッズリターンの撮影に入る前に、もう一本、缶コーヒーのCMのオーデョションにも出させられて、それも受かったんです。矢沢永吉さんと一緒の撮影でした。そのCMが話題になって、CMの年間大賞にも選ばれたりして。ラジオやテレビに呼ばれて映画の宣伝をしました。芸能人は全然興味がなかったので、矢沢永吉さんのことも当然知らなかったのですが、あとから知って凄い人だったんだなってびっくりしました。あの頃はいろんなCMやドラマにも出て、面白かったなあ。でも2、3年やってると、だんだんなくなってきて。結局は売れない俳優でしたが、10年ほど俳優業をしたあと、30歳で飲食の道へ入ったわけです。

 

 

自家製麺にこだわってきた理由。

日本で手に入る業社の麺は添加物が多く、スープの香りを消してしまうから、無添加の自家製麺にこだわりました。シドニー店ではスペースの問題もあって、製麺専門業者から麺を仕入れています。将来的にはシドニーでも自家製麺を打ちたいという思いはありますね。実は日曜日だけキングスクロスのブッシャリにて、10食限定の自家製麺つけ麺を出して様子を見ているところなんです。

 

キングスクロスで食べることができる手打ちつけ麺とは。

鳥パイタンに海老の旨さを乗せて、濃厚なえびと鳥パイタンのうまさが詰まったスープをスマートな手打ちの太麺で楽しむといったものです。手打ち麺なので、少量しか生産はできないんですが、旨い麺が仕上がってますよ。旨い麺には、なんにもいらないからな。醤油をちょろっと垂らすだけで食えてしまう。しっかり茹でて、しっかり洗ってあげると、麺が艶やかで旨そうな表情を向けてくれるんです。見たら分かりますよ。

 

 

 魚介とんこつつけ麺 S$14M$15L$16

 

今後は限定つけ麺をチャイナタウンでも食べることができるようになるのだろうか。

チャイナタウンでも出したいですが、中途半端に出すぐらいだったらやらないですね。環境が整えばもちろん出したいです。お客さんにはわからないくらいの差で、きっと美味しいと言ってくれるものは、いまでも出せると思うんですが。妥協するのが嫌なんですね。いい状態でお客さんに楽しんでもらいたいという俺のこだわり。俺の作ったラーメンをまずいって思われたくないですしね。

 

シドニーの食文化に関して。

先進国だからレベルの高いお店が多いというイメージでしたが、食に関してはこれから伸びる、発展途上というイメージですね。本当に旨いものを知らない方が多いように感じました。でもいまは周りのお店は関係なく、自分の味を突き詰めることしか考えていませんよ。

 

翁さんにとってラーメン作りで大事にしていることとは?

何事も基本が一番大事で、ラーメンを突き詰めて行くと麺とスープの旨さに尽きると思うんです。そのふたつの基本が旨かったら、本来具なんて必要ないじゃないですか。たったふたつのシンプルなことなんですが、シンプルだからこそ難しい。だから店としての基本をしっかり固めて、スープと麺だけに一生懸命面倒見てあげる。麺とスープは女性と同じで、面倒見なければ嫌な顔をするし、面倒を見てあげるとウキウキした表情を見せてくれるんです。どれだけ時間を費やしてあげられるかが大事。毎日毎日同じ材料で同じ分量でやっていても、一日一日やっぱり味が違うんです。タイマーだけに頼ればできるというほど簡単なことでもない。どれだけ気になって食材に顔を向けているのか、そういうのって本能的に好きでやってないとできないと思うんですよ。本当に旨いものができあがったら、宣伝やSNSなどに時間を掛けなくても、お店はうまく集客できるはずなので、だから自分は基本に集中しています。

 

最後にまだ翁さんラーメンを食べていない方へ。

ラーメンが嫌いな人はしょうがないけど、好きな人はそれぞれ地元に自分の好きなお店があると思います。日本には帰れないけど、こういったラーメンをシドニーでも食べたいと要望してくれたら、そういう期待に応えていきたいです。美味しく食べて幸せに帰ってもらうのが本望ですから。なので当店のラーメンの噂が自然と耳に入って、気になったらぜひ一度食べてみてほしいです。まだ耳に届かなかったら、いまのお店の実力がまだその程度なんだっていうことなんですよ。

 

翁さんラーメン シドニー店
電話:0439 945 245
Dixon House Food Court, Sydney
営業時間 11am - 20:30pm 7 Days Open
Web:www.o-san.com

 

 

 

 

Busshari
119 Macleay St., Potts Point NSW
営業時間 月-土: 12pm - 14:30pm, 18pm - 22:45pm
日: 12pm - 14:30
電話:(02)9357 4555
Web:www.busshari.com.au

 

 

 

翁和輝経歴 

004年7月 超激戦区の北九州市でとんこつラーメン店ちゅるるちゅーらをオープン
2008年7月 東京都板橋にて自家製麺コンセプトをオープン 
2009年9月 東京都新宿区にて自家製麺ワンズワンズをオープン
2009年9月 東京都板橋にて自家製麺ワンズワンズをオープン
2012年10月 東京都早稲田にて自家製麺オールドマンをオープン
2014年7月 カンボジア、プノンペンに翁さんラーメンをオープン
2015年2月 オーストラリア、シドニーに翁さんラーメンをオープン

 

 


ページトップへ