映画作りの真髄を、学生たちに伝えたくて 阿部勉(映画監督) | Cheers インタビュー
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    松竹株式会社、立命館大学、京都府から協力を得て、今まで前例のない「産・学・公」の連携を実現し制作された話題作『京都太秦物語』。阿部勉監督、山田洋次監督、そして立命館大学の22人の学生と共に作り上げたこの作品がSydney Japanese Film Festivalにて上映される。その上映に先駆け、今回チアーズ編集部では監督の阿部勉氏に映画制作について話しを伺った。11月23日には阿部勉監督によるパネルディスカッションも企画されているのでお見逃しなく。

     

    今回の作品が第2回目の監督作品と伺っております。1本目と比べ制作はスムーズに進みましたか?

    決してスムーズではありませんでした。まったく同じ作品を作るのであれば、2本目はスムーズに進むのかもしれませんが、映画は1本1本まったく違う作品なので、違った難しさがあります。映画を作る時は、いつも迷い、悩みながら作ります。 

    制作を無事に終えた今のお気持ちを聞かせてください。

    始まる前は果たして終わるのだろうか、ちゃんとした映画になるだろうかと不安になるものですが、終わってしまうと嬉しさよりも、少し寂しい気分になります。充実感と寂しさを同時に感じるのは、映画という仕事の特長かもしれません。

    阿部勉監督、山田洋次監督、それと立命館大学の22人の学生と共に作り上げたこの作品で、阿部監督はどのような役割を担当されたのでしょうか?

    日本映画では、共同監督というのはほとんど例がありません。あったとしても、オムニバスのように、撮影するシーンを分担することがほとんどです。しかし今回はすべてのシーンを山田監督とふたりでどう撮るか、このシーンで何を表現すべきかを話し合い撮影に臨みました。山田監督は日本でも一番忙しい監督ですから、打合せをした後で、僕がひとりで監督するシーンも多くありました。撮影現場で俳優を演出し、スタッフに号令をかけるのは僕の仕事です。ポストプロダクションの作業はすべて僕が担当しました。

    学生の方たちは映画に関しての経験や知識が少ないと思うのですが、彼らからプロである阿部監督が何か学ぶことはありましたか?

    未経験の学生たちと一緒に仕事をすることは、とても面倒なことでストレスや負担になるのではないかと始まる前は不安もありました。しかし、一生懸命映画作りを学ぼうとする彼らが、毎日成長していく姿を間近で目にすることは、我々にとっても大きな喜びでした。山田監督も「学ぶことは喜びだが、教えることもまた喜びである」と言っていますが、学生たちに映画とは何かを伝えることによって、僕たちもまた、新鮮な映画作りを体験できたと感謝しています。

    今回の映画では大映通り商店街の方々が多数出演をしています。大映通り商店街の方々から映画に対してのインスピレーションを受けましたか?

    長年、人生の大部分をその仕事に費やして来た方たちは、独特の雰囲気と存在感を持っています。俳優が器用にアイロンをかける真似をしたり、豆腐をつくる真似をしたとしても、それは形が少し似ているだけで、職人が全身から発する存在感にはかないません。商店街の皆さんに出演してもらうことによって、大映通り商店街がどのような歴史を持ち、今どのような問題を抱え、どこへ進もうとしているのかがスクリーンに映し出されたと思っています。 

    松竹株式会社、立命館大学、そして京都府からの協力も得て、映像制作において類を見ない「産・学・公」のコラボレーションで仕上がった作品を実現なされました。2008年から今年の頭までの制作ということでしたが、現場で一番苦労されたことは何でしょうか?

    学生たちが経験不足であることは、大きな障害にはなりませんでした。知らないことは、教えれば分かるようになるからです。商店街の皆さんに協力をお願いすることも、丁寧に話していけば理解していただけます。一番苦労したのは、このプロジェクトをスタートさせるために、関係者の理解を得ることでした。 「産・学・公」の連携による本格的な映画制作は日本では初めてのことでした。前例のないことは理解されにくいのです。映画会社と大学が一緒になって映画を作るということ自体は、皆がすぐに賛成してくれます。しかし、学生の単なる実習作品レベルではなく、きちんと劇場公開し、お客さんに入場料をいただけるような作品を作ろうということはなかなか理解されませんでした。人材育成のため、映画を学ぶためにそこまでやる必要があるのかと。きちんとした商業映画を作るということは、それなりに製作費も掛かり製作日数も必要です。しかし、そこまでやらなければ、映画作りの真髄は伝わらないとぼくたちは考えたのです。中途半端な作品を作っても勉強にはならない、映画とは何かは分からないと。こうした我々の考え方を関係者に理解してもらうことが一番大変だったように思います。

    映画の節々で学生の方たちの「よい物を作り上げたい」という純粋な気持ちが伝わるシーンが多々ありました。彼らの気持ちをどのように引きだすことができたのですか?

    観客が感動する映画を作るためには、スタッフと出演者が一緒になっていい映画を作りたいという思いを持たなければダメなんだと繰り返し学生たちに話しました。作っている僕たちが、こんなもんでいいだろうと妥協していたら、観客には伝わらない。迷い、悩み、考え抜いた表現でなければ通用しないのだと言い続けました。そのためには、全員の努力が必要なんだということが、彼らにも分かってもらえたのだと思います。

    この作品からはどこか懐かしい青春の香りを感じることができますが、今日では人間同士、愛やつながりが希薄になってきたと言われている中で、こういった純粋で素朴な愛をコンセプトにした映画を制作された意図を教えていただけますか?

    ストーリーの骨格はきわめてシンプルです。しかし、ノスタルジックなラブストーリーを作るつもりはありませんでした。クリーニング屋に生まれた娘と豆腐屋の息子の話が軸になっていますが、このふたりの設定はほとんど実話で取材に基づくものです。クリーニング屋の姉妹と親子の関係も、豆腐屋夫婦と息子との葛藤も、実在の親子関係の話がベースになっています。現代の家族関係、商店街の人々の生活も、掘り下げて行けば、いろいろなことが見えてくるということではないでしょうか。

    初上映の際は思ったとおりの反応をえることができましたか?

    完成した映画は時として、作り手の思いとは違った歩みを始めるものです。この映画が初めて関係者以外の目に触れたのは、実はベルリン国際映画祭での上映でした。映画が始まってしばらくすると、観客があちこちで笑い始めたのです。最初は小さな笑いでしたが、やがて大きな笑いも起きるようになりました。僕たちは理解できず顔を見合わせたものです。続いて上映された香港映画祭では、床を踏み鳴らさんばかりの大爆笑でした。5月22日に京都から始まった国内での上映は、終わった後で涙を拭う姿があちこちに見えました。いずれも、思った通りの反応というよりは、思ってもみなかった反応と言えるかもしれません。

    今回USA(EXILE)さんを起用していますね。キャスティングのコンセプトを教えてください。

    USAさんは日本のトップダンサーと言っていい存在だと思いますが、演技者としての夢も持ち続けていたようです。山田監督の映画が大好きで、いつかは山田監督の映画に出演したいと思っていたようです。映画は今回が初出演となりますが、僕たちも初めて彼に会った瞬間から、康太は彼以外にいないと思いました。不思議な存在感をもった青年というのが第一印象でした。

    最後に在豪している日本の方へ、阿部監督からのメッセージを宜しくお願いいたします。

    大映通り商店街は、かつて映画の街として栄えた歴史を持っていますが、それ以外は日本のどこにでもある小さなショッピングストリートです。今、小さな商店街は、どこも存亡の危機に瀕しています。大きなショッピングセンターやインターネットショッピングにはかなわないからです。この映画は、そんな現代に対するプロテストでもあります。日本は小さな国ですが、生まれた街に住み続けるのか、飛び出すのか、多くの若者たちは悩みながら人生の岐路に立ちます。そんな彼らを見守りながら、この映画を楽しんでいただければと思っています。

    阿部勉
    1957年、宮城県出身。東北大学経済学部卒業後、松竹株式会社へ入社。山田洋次監督などのチーフ助監督を務めながら、1999年『しあわせ家族計画』で監督デビューを果たす。本作が第33回ヒューストン国際映画祭ファミリーチルドレン部門金賞を受賞する。

    「しあわせ家族計画」DVD $29.95
    フィルムフェスティバル初日より、インフォメーションデスクにて購入可能! さらにご購入頂いたDVDには、11月23日のW上映セッション中に阿部監督のサインがもらえます!

    京都太秦物語
    舞台は京都太秦(うずまさ)にある大映通り商店街。東出京子(海老瀬はな)はクリーニング店の娘で立命館大学の図書館に勤めている。幼なじみである梁瀬康太(USA)は豆腐店の息子で、アルバイトをしながらお笑い芸人を目指しオーディションを受け続ける日々。ある日、京子は図書館で白川静文字学を研究する榎大地(田中壮太郎)と出会う。学問一筋の大地は京子に一目惚れしてしまい、一途な情熱を京子へ注ぎはじめる。一方、康太はコンビの相方とも別れを告げ、自分の将来について悩みはじめる。京子との関係もうまくいかない。次第に揺れ動く京子、それを取り巻くふたりの男性との心情を描くヒューマンドラマ。


     

    CHEERS 2010年12月号掲載

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