愛があるから創れる美味しい料理 犬飼春信 | Cheers インタビュー

愛があるから創れる美味しい料理 犬飼春信 | Cheers インタビュー

Cheers インタビュー

オブザバートリーホテル『ガリレオ・レストラン』の総料理長として、名を馳せるカリスマ・フレンチシェフの犬飼春信氏が、遂に長年の夢であった独立を果たし、8月8日、エリザベス・ベイにフレンチ・ジャパニーズレストラン『blancharu(ブランシャル)』をオープンした。地元メディアからの注目も集まる中、レストランに対する反響は大きく、連日予約で満席状態が続いている。「白いお皿に自分の想いを伝えたい」―フランス料理の繊細さと日本料理の奥深さを融合させ、お客の喜ぶ顔を見たい一心で料理に腕をふるうシェフに話を伺った。

blancharuのオープンおめでとうございます。多くの犬飼ファンの方はもうすでにblancharuへ足を運んだと思いますが、これからという方のため、レストランのコンセプトを教えて下さい。

〝気軽に食べられるフレンチレストラン〟と思っていただければ光栄です。レストランのストリート側はガラスばりのオープンな作りになっているので、通りがかりの方もよく入ってきてくれます。うれしいことに今は予約でいっぱいです。フレンチというと、やはり高いイメージがあると思いますが、blancharuではリーズナブルなお値段でお料理を提供させていただいています。食材もこれまでどおり、良質なものを厳選して使っています。自分がお客様の立場になったときに「行ってみたい!」と思えるようなレストランが、blancharuが目指すところです。

食材や料理、内装、ホスピタリティなど、blancharuのこだわりを教えてください。

食材のほとんどは自分で実際にマーケットへ足を運び、納得するもののみ厳選して使っています。またパンや野菜はオーガニック。オーガニックの食材はあまり手を加えず、素材が持つ味の良さを生かすように料理しています。インテリアでこだわったことは、真ん中にキッチンがあり、それを囲むようにオープンカウンターがあることです。カウンターにいればお客さんがご来店の際に挨拶もできますし、皆様の反応を見ながら料理が作れます。これまではキッチンでただ料理と向いあうだけでしたので、お客様と自然に触れ合うことができるこの環境はとても嬉しいです。

レストランをオープンされるにあたり、何か具体的なきっかけはありましたか?

やはり坂井宏行シェフとの出会いが大きかったと思います。オブザバートリーホテルで働いていたときは、アカウントや買出しなど、料理以外のことは全て他のスタッフが担当してくれたので、私は料理のみに励むことができました。しかし4年前に参加した美食会をきっかけに坂井さんと出会い、彼の店で一緒に料理をさせていただく中、自分で全てやってみたい、〝料理人〟として店を出したいと思うようになりました。

坂井シェフはどんな方ですか?

ムッシュはあまり語らない、とても穏やかな方なのですが、とにかく仕事が早くてきれい。一生懸命やっている人にはとても優しく、応援してくれます。実は、私も初めから全面的に信頼されていたわけではなく、最初の美食会では、打ち合わせの時点でムッシュから20通近くのメールをいただき、レシピについてそれはこと細かに説明がありました。私もこんなすごい人に恥をかかせちゃいけないと思い、気合を入れて食材を用意し、300本しか使わないアスパラを1000本ぐらい揃えたりしました。その2年後の美食会では、メニューのみ送られてきて、3度目にもなるとメニュー自体がかなりギリギリに送られてきました(笑)。今年も12月2~4日、坂井シェフをご招待し、オブザバートリーにて美食会を行う予定です。

先ほどの話に少し戻りますが、オブザバートリーホテルのカリスマシェフとして確立された地位にいながら、独立に踏み切るには相当のエネルギーが必要とされたのではないでしょうか?

「思い切り」が必要でした。でも自分の力を試してみたかったんです。以前、ドトールの鳥羽会長が、ご自身の著書に「夢を見て、夢を追い、夢を叶える」というメッセージを書いて僕に贈ってくださったのですが、その影響はとても大きかったです。他にも様々な会社の社長から色々と学ばせていただきました。坂井シェフも含め、多くの方との出会いが後押ししてくれた形だと思います。

開店にあたり、坂井シェフから何かアドバイスはありましたか?

「体に気をつけて」の一言です。坂井シェフからは「体あってこそ周りのスタッフもついてくる。体をこわしたら誰もついてこないよ」と常にアドバイスをいただいております。この業界は体が資本ですので、自分の健康維持には特に気を配っています。

そもそもシェフになられたきっかけを教えてください。

長野の実家ではトマトやキュウリ、スイカ、ナス、ジャガイモと、ほとんどの野菜を作ってたんです。春は山菜を採りに行き、秋は魚やイナゴを採りに行きました。父も母も料理を作るのが好きな家庭で育ったので、僕も自然に好きになりましたね。高校卒業後に大阪の調理師専門学校に入りましたが、フレンチをやりたいと思ったのは、単にカッコイイと思ったからです(笑)。

オーストラリアの厨房と日本の厨房、何が違いますか?

オーストラリアの厨房はすごく自由だと思います。日本はまず洗い場から入り、まかないを作り、そこで初めてレストランの料理に触れることができるのですが、オーストラリアの場合、シェフはシェフ、洗い場は洗い場ときっちり分かれています。オーストラリアの学校でも掃除は生徒ではなく、クリーナーがするでしょう? しかし、そういった環境で育ったスタッフには常に掃除を意識させなければなりません。お客様に美味しいお料理を出すために必要なことですから。私も率先して掃除に携わります。そうすると、スタッフも自然と行動してくれるんです。これは専門学校時代に働いていた全日空ホテルのシェフに 教えていただきました、「汚い仕事は誰かがやらなきゃいけない。きちんと手を抜かずやっていれば誰かが見ていてくれる。それは大切だから忘れずにやりなさい」と。19年前にいただいたお言葉ですが、今でもはっきり覚えています。

インターナショナルなオーストラリアの食文化の中、blancharuはどのような存在でありたいですか?

地域密着型で美味しい料理が食べられ、お客様の笑顔が常に見られるようなレストランでありたいですね。このスタッフの人数でこの料理数は多いとびっくりされますが、お客様をあまり待たせたくないので、仕込みをしっかりして、素早く料理を出せるようなチームワーク作りを心がけています。

料理を作るときのポリシーは何でしょうか?

何事もそうだと思いますが、基礎をしっかりすること。あとはオリジナル性が大事だと思います。私にとってのバイブル的料理書は、約100年前に書かれたフレンチの古典本で、ここにあるレシピは基本中の基本です。過去の偉大なフレンチシェフも皆このレシピを基盤にして、その時代に合わせたアレンジをしてきたんです。私もこれをベースに、自分流に工夫をしています。あと、常に美味しいものを食べていることが大切だと思います。美味しいと思った味を記憶し、それを再現できるように創作すればいいわけですから。舌を敏感にしておくためにも、たばこはもちろん、お酒もほとんど飲みません。近年、'フュージョン料理'という新しい形の料理が人気を集めていて、それはそれで素晴らしいと思いますが、自分としては基本に戻って、素材の味を大事にして手を加えていきたいと思っています。

犬飼シェフにとって料理とは何ですか?

〝愛〟かな。愛がなかったら美味しい料理は作れないと思います。

最後にそれぞれの夢を持つチアーズ読者に向けて、一言お願いします。

人生を歩む中、自分の目標や計画を持ち、それに向かって諦めずに頑張れば、できないことはないと思います。今の若い人の中には、何をやっていいか分からず、迷っている人も多いと思いますが、まずは自分のやりたいことを見つけ、どうやったらそこに辿りつけるのかを考えてほしい。近道というのはないと思いますし、努力をしながら経験を積み、一歩一歩進んでいくことが大切だと思います。それには友達や先輩の協力なくしてはできないので、周りの人を大切にして下さい。人間はひとりでは生きられない。だから人を信じて、人と一緒に、夢へ突き進んでください。

犬飼春信

1967年生まれ。長野県松本市出身。高校卒業後、大阪の辻調理師専門学校に入学。東京ヒルトンホテルで1年、浦安シェラトンホテルで3年間修行を積む。91年来豪し、フレンチシェフのモーリス氏の下でフランス料理を2年間学び、その後1年間、ビルソン氏の下モダンオーストラリア料理を学ぶ。94年、東京恵比寿にオープンするロッブッション氏開業のレストランでモーリス氏の下、3年間働く。97年再来豪し、アンパーサンド・レストランでヘッドシェフとして2年間、その後レストランⅦでも2年間ヘッドシェフを務める。この時、ベスト・ニュー・レストラン賞を受賞。03年よりガリレオ・レストランで総料理長。04、05年グッド・フード・ガイド・ワンハット受賞。さらに05年、レストラン・オブ・ザ・イヤー(2006オーストラリアン・ホテル・アソシエーションNSW)受賞の栄誉を受ける。08年に独立、8月8日にフレンチ・ジャパニーズレストランblancharuをオープン。


Gravlax of Salmon with yuzu cream sauce ($14)
薄めにおろしたサーモンの身をコリアンダーシード、セロリ、オレンジ、ニンジン、昆布などに漬けじっくり熟成させている。しっとりとやわらかい身には旨みや香りが凝縮して閉じ込められていて、口の中で開放されるように飛び出す。バジルソース、ゆず胡椒と和えたクリームソースともにサーモンとの相性抜群でさっぱりとした風味を一層引き立てている。


Terrine of Duck, rocket salad & pistachio dressing ($20)
鴨の胸肉、もも肉そしてファオグラと、鴨の美味しさがギュっと詰まったテリーヌ。なめらかな舌触りは濃厚な香りを残しながらとろける。シナモン、クローブ、ポルトワインなどがやさしく上品な香りを演出。グレープシードオイル、ハチミツとともに作られるピスタチオ・ドレッシングが癖のないさっぱりとした甘みで素材そのものの邪魔をせず深い味わいにしている。


Porcini Risotto, Parmesan cheese ($18)
ヨーロッパで好んで使われる茸であるポルチーニのリゾット。チキンベースのさっぱりさにポルチーニの高級感あふれる香りと甘い風味が溶けこむやさしい味わい。粥状に調理されて見えるがライスには一粒一粒にしっかりとした食感がある。これはオーダーを受けてから初めて火を入れ、ライスもアルデンテになるように調理されているため。パセリの風味も口に残しつつ、爽やかな美味しさが続く。


Hand made Fettuccine, Truffle butter ($20)
トリュフの香りが広がるフェットチーネのパスタ。味の決め手となるのは自家製の生麺とblancharuオリジナルのトリュフバター。麺はうどん作りからアイデアを取り入れ、伸ばしてから折りたたみ、また伸ばすという工程を重ねて作られている。このこだわりの製法により、もちもちとしながら同時に歯応えのある、他では味わえない麺に仕上がっている。無駄なことはせず、トリュフとパスタの魅力を味わうことができる。

Roasted milk fed Lamb, sauteed green beans, Lamb jus($28)
生後間もない乳だけで育ったミルク・フェドのラム肉には癖や臭みなど一切なく、甘さが全面に出ている。さりげなくまぶされているブレット・クラムはガーリック、オリーブオイル、ローズマリーで香りづけされたものでアクセントとしてラム肉にまろやかさを与えている。またラム自体から取り出した旨みで作られたソースが深いコクで全体をまとめている。

Roasted Duck breast, baby spinach & cardamom sauce($26)
表面の皮がパリッと香ばしくローストされていて、ジューシーな旨みを逃すことなく内側に閉じこめている。断面は鮮やかなピンク色に光り、その身は噛むほどにプリプリとしてやわらかい。こぼれ落ちる肉汁からは鴨の素材本来の上質な味を心置きなく味わえる。カルダモンを使用したソースは小気味よい辛さと甘い香りを演出しており、鴨肉が苦手なひとにも抵抗を感じさせることはない。

Traditional vanilla Creme Brulee ($12)
ブリュレはフランス語で「焼きクリーム」を意味する。表面はカリッとカラメルで覆われ、香ばしく甘い匂いが広がる。パリッと表面が割れ、カラメルの下から現れるカスタードは実にきめ細かく滑らか。卵黄の量と温度に気を配り、固くならないように、コクを失わないように50分じっくりと加熱する。卵黄と生クリームのすっきりとした甘みがバニラビーンズの豊かな香りとともに口の中を満たす。

Raspberry souffle, vanilla ice cream ($14)
オーダーを受けてから、20分かけて焼き上げるというスフレは、容器から吹き出しそうなくらいにフワフワに膨らんでいる。時間をおくとしぼみ始めるので焼き立てを熱いうちにいただこう。ラズベリーのピンク色が鮮やかな表面はサクサクと音をたてて割れ、中から甘酸っぱいラズベリーが出てくる。バニラアイスの甘さと一緒にすることでよりマイルドな風味になる。


CHEERS 2008年10月号掲載


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