オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

Vol.17 『Marquee Moon』

柴田カンジ

09/04/10











今回紹介するのはテレビジョンの1stアルバム、『Marquee Moon / 1977年発表』。ニューヨーク・パンクを代表するバンドの、ニューヨーク・パンクを象徴するアルバムだが、100人に視聴させたとしても、ただの1人も 「パンク系ですね」とは答えないかもしれない。マーキームーンはそんな作品である。もともとのパンクは"Punk is attitude"と表現され、必ずしも音楽スタイルを指すものではなかったが、特にNYパンクはシーンに属していたバンドたちがそれぞれにバラバラの個 性を持ち、ジャンルとしてのまとまりがまったくなかった。例えば、同じくNYパンクを代表するバンドであるラモーンズとテレビジョンの間には、はっきり 言ってこれっぽっちの共通点もない。NYパンクに関しては、当時のロックシーンに不満を持つ者たちによる、音楽的ルネサンスであったと考えたほうがいいだ ろう。

この傑作パンクアルバム"マーキームーン"には、8ビートの高速ソングも、歪んだギターサウンドも、絶叫も、「デストロ~イ!」もない。しかし、そこにはパンクバンドこそが持ちえる圧倒的な緊張感、性急感、焦燥感が存在する。氷のように鋭利にからみ合い、激しい摩擦を起こしながらも、繊細で透明な音の残像を残していく2本のギター。高度な計算の上に成立しながらも、無限の広がりを感じさせる音の空間。そこに佇むトム・ヴァーレインの声と文学的な詩。この作品には何か別のもうひとつの"世界"が閉じこめられており、そこへは耳を澄ますことで容易に辿り着くことができる。特にタイトル曲である、4曲目マーキームーンを聴くたびに浮かび上がる風景には、あまりの美しさに言葉をなくす。



こういった作品というのは一部の文学や芸術と同じように、永遠の命を宿しているのだろう。そんな歴史的名盤も、77年当時のアメリカではなんとビルボードチャートの200位にさえ入ることができなかった。一方、パンクがロンドンを燃やしていたUKではトップ30にチャートインし、その影響は直接、80年代のニューウェーブやポスト・パンクにまで及ぶこととなる。初期のU2などはテレビジョンのパクリと揶揄されることも多く、実際にギタリストのエッジはその影響を公言していた。アメリカでもその後、ソニックユースやストロークスなど、テレビジョンの遺伝子を受け継いだバンドが成功を収めている。また日本では、ナンバーガールが解散ライブの開演直前に会場でマーキームーンを流していたりと、テレビジョンの音楽はまさに時代を超越したものとなっている。僕は10代の終わり頃にこの作品と出会った。様々な音楽を聴いてきたつもりだが、このアルバムを超える作品を僕はいまだに知らない。この奇跡の1枚。皆さんにもぜひ、その存在を知っていただきたい。







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