オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

もっと旅を 3

北山時雨

05/07/10


例年のことながら思うのだが、今やインターネットで世界中のツアーや宿を検索し、予約もできるようになった。全てとは言わないまでも、航空機の予約もできる。これではもう旅行会社の出る幕はなくなってしまうのではないかと、旅行業出身のこの身は心配するのだが、なかなか旅行会社が倒産したとは聞かないので一応ほっとはしている。

今回もクルーズにしようかとキーをたたいて検索すると、あるはあるは、山ほどの情報量である。1月、2月は時期的なせいか、南太平洋や世界一周クルーズが目立ち、北半球の北欧・地中海・大西洋辺りは少ない。しかし、カリブ海クルーズの数は断然多い。たしかにあの寒風吹きすさぶシカゴの空港の雪景色から見れば、燦々と陽が照り輝くカリブ海はまったくの極楽に見えるのだろう。吹雪の時期に北海道の人が沖縄ツアーに参加するようなものであろうか。本当は日本発オーストラリア行きの船旅を希望していたのだが、香港からでないと乗船できないと言われ、そうなると日数も大幅に増え、おまけに値段も高くなってしまい、まるで三重苦のような状態であった。そこで「カリブ海クルーズ」。なかなか良い音感ではある。やはり旅の中で一度は行って見たい(してみたい)ことのひとつだろう。当然のことながら最安値を選び予約をした。もちろん日本での滞在は極力短くし(それでも 11日間になってしまった)、後は充分に気を晴らそうという魂胆であった。





マイアミからの2週間、我々は船旅を堪能した。これほど楽しんだ乗客はいないのではないか(もちろん費用対効果の観点で言っている)。客室は良く(窓があって海が見える)、食事もサービスも良く、エンターテイメントもバラエティに富んでいたし、設備も申し分なかった。毎朝ストレッチ・クラスに参加し、健康的に食べ(これがなかなか難しい)、ほどほどに飲み(これも難しい)、そして体に休養、頭に教養を…という生活であった。これは仕方のないことかもしれないが、「水」だけはちょっと残念であった。海水を真水に変えているせいか、そのまま飲んでいる分にはほとんど違和感がないが、お茶やコーヒーがまったく味気ないのである。瑕疵はその点だけである。

我々のクルーズは14泊の日程で、マイアミを出港して2日半ひた走りに南下し、セント・トーマス、アンティーグア、セント・ルシア、バルバドス、グレナダ、トバゴ、アルーバ、キュラソーと8ヶ所に寄港する。それぞれが島で、セント・トーマス(アメリカ領)とアルーバ、キュラソー(双方ともオランダ領)以外は独立国である。地図で見ると同じカリブ海でも最南部である。アルーバなどはもう少しでベネズエラである。噂によるとあのウゴ・チャベスがちょっかいを出そうとしたらしいが、オランダ側はやるならやってみろと開き直っているらしく、下手に手を出せば大火傷をしそうだとやめているらしい。





それにしてもこれらの島々(国々)はみなよく似ている。気候も、自然環境もそうだが歴史的背景もそっくりなのである。簡単に言えば、1492年コロンブスがこの地に来て以来、スペインとポルトガルを皮切りにイギリス、オランダ、ドイツ、デンマークなどヨーロッパの国々が我勝ちにそして分け取りに植民地にした。何のためかといえば主に砂糖、コーヒーの生産をするためで、その労働力をアフリカから強制的に連れてきた奴隷でまかなったのである。だから当然これらの島々の住人はほとんどがアフリカ系の人々なのである。そのせいかどうか解らないが、あちこちの島で会う人はみな不機嫌そうに見えるのである。愛想がないだけでなく不親切でもある。表情がとても硬いのである。家内いわく、奴隷として無理やり連れてこられたら機嫌よくできるわけがない、と言うのだが、そうかもしれない。あるいは大型豪華客船で続々とやってくる観光客は、たとえたくさんいても、朝着いて午後にはもういなくなってしまうから、直接的な経済効果や個人的な交流ができるわけでもない。食事でさえ船でとる我々は彼らにすればただ通りすがりの、ちょっとだけお土産を買ってくれる異邦人なのかもしれない。それでもどこの港町でも免税店や免税扱いをする店が目立ち、それも時計・宝石や高級装身具を扱っている。やはり今はポピュラーになってしまったが、昔はクルーズそのものが金持ちのレジャーでその頃の名残のような気がしてならない。確かに一時期のアメリカ人クルーズ客は羽振りが良かったのだろう。





昔々、訪れたエーゲ海の島々は、ギリシャ神話に出てくる神々が深く関わっていた。いわく、ヘラの目を恐れて愛人をこの島に隠したとか、いわく、神託によってだれそれがこの島に来たとか、壮麗な神殿跡を背景に語られると真面目な神話も大いなる法螺話に聞こえてきて、なかなか楽しいものであった。ところがここでは何と言うことだろう。血塗られた歴史を消せない悲しさのようなものがある。エーゲ海だってたくさんの血が流されたことだろう。いや、トロイ戦争ひとつを考えても膨大な量であったろう。しかしそれでも人間と神の営みに、ある種のロマンを感じるのである。エーゲ海は歴史が古いせいだろうか。醜い現実を洗い流す時間が違うのだろうか。カリブの島々はまだ充分に洗い流されていないのであろうか。ラテン音楽のあのリズムと旋律。我々の頭の中のカリブの国々は晴朗で開け放したような明るさに満ちているが現実は違うようだ。やはり世界は広いのだ。もっと旅をしなければ…。(この項続く)



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