オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

カンジのLet it Rock -Television-

バーシー

22/09/10


今回紹介するのはテレビジョンの1stアルバム、『Marquee Moon / 1977年発表』。ニューヨーク・パンクを代表するバンドの、ニューヨーク・パンクを象徴するアルバムだが、100人に視聴させたとしても、ただの1人も「パンク系ですね」とは答えないだろうと思う。マーキームーンはそんな作品である。



本来のパンクは“Punk is attitude”と表現され、必ずしも音楽スタイルを指すものではなかったが、特にNYパンクはシーンに属していたバンドたちがそれぞれにバラバラの個性を持ち、ジャンルとしてのまとまりがまったくなかった。例えば、同じくNYパンクを代表するバンドであるラモーンズとテレビジョンの間には、はっきり言ってこれっぽっちの共通点もない。NYパンクに関しては、当時のロックシーンに不満を持つ者たちによる音楽的ルネサンスであったと考えたほうがいいだろう。




この傑作パンクアルバム“マーキームーン”には、8ビートの高速ソングも、歪んだギターサウンドも、絶叫も、「デストロ~イ!」もない。しかし、そこにはパンクバンドこそが持ちえる圧倒的な緊張感、性急感、焦燥感が存在する。



氷のように鋭利にからみ合い、激しい摩擦を起こしながらも、繊細で透明な音の残像を残していく2本のギター。高度な計算の上に成立しながらも、無限の広がりを感じさせる音の空間。そこに佇むトム・ヴァーレインの声と文学的な詩。この作品には何か別のもうひとつの“世界”が閉じこめられており、そこへは耳を澄ますことで容易に辿り着くことができる。特にタイトル曲である、4曲目マーキームーンを聴くたびに浮かび上がる風景には、あまりの美しさに言葉をなくす。




こういった作品というのは一部の文学や芸術と同じように、永遠の命を宿しているのだろう。そんな歴史的名盤も、77年当時のアメリカではなんとビルボードチャートの200位にさえ入ることができなかった。一方、パンクがロンドンを燃やしていたUKではトップ30にチャートインし、その影響は直接、80年代のニューウェーブやポスト・パンクにまで及ぶこととなる。



初期のU2などはテレビジョンのパクリと揶揄されることも多く、実際にギタリストのエッジはその影響を公言していた。アメリカでもその後、ソニックユースやストロークスなど、テレビジョンの遺伝子を受け継いだバンドが成功を収めている。また日本では、ナンバーガールが解散ライブの開演直前に会場でマーキームーンを流していたりと、テレビジョンの音楽はまさに時代を超越したものとなっている。



僕は10代の終わり頃にこの作品と出会った。様々な音楽を聴いてきたつもりだが、このアルバムを超える作品を僕はいまだに知らない。この奇跡の1枚。皆さんにもぜひ、その存在を知っていただきたい。





TUNES



Venus

http://www.youtube.com/watch?v=4f3d5ZdE4vY&feature=related



Friction

http://www.youtube.com/watch?v=RwrCUEMl76U&feature=related



Marquee Moon

http://www.youtube.com/watch?v=jlbunmCbTBA



Guiding Light

http://www.youtube.com/watch?v=OVxfPylCGhw&feature=related



Prove It

http://www.youtube.com/watch?v=OULLiXkwVck&feature=related





紙のチアーズ・2010年4月号掲載



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