オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

ジェシカの世界1周単独無寄港航海

北村元

23/05/13









17歳になる直前のジェシカ・ワトソンさんが、5月15日、世界1周単独無寄港を成功させ、再びこの乾燥大陸のシドニーに戻ってきた。
 

彼女のヨット「エラのピンク・レイディ」は、予定より数時間遅れて、壮大な航海のゴール・ラインを切った。210日間、およそ38000キロの世界1周、無寄港、自力、単独の航海を成し遂げた瞬間だった。世界の機関が認定しようがしまいが、16歳による第1級の冒険である。

 

海上で出迎える船も3000隻に及んだ。白昼の集団ストーカー如きだ。

 

ゴールインの遅れは、前日、30ノットの風に主帆が引き裂かれ、4メートルを越す高波が沿岸から40キロも押し流したことによるものだった。自然は、彼女に最後の試練を与えたのだ。

 

午後3時前、彼女の船「ピンク・レイディ」と同じ色の絨毯が敷かれたシドニーオペラハウス脇の岸壁に降り立った。両親、弟、妹と涙の抱擁が続いた。あとは、陸上もカメラマンで無茶苦茶だった。足の弱った彼女を、弟が肩で支える。シャッターを切る手を止めて後ろを振り返ると、無数のファンが拍手を送っていた。その数、1万を超えたか。

 

1962年5月12日夜、堀江謙一青年は、西宮を一握りの友人に見送られて密かに出港。8月12日サンフランシスコ港に現れた。しかし、日本の官憲や一部マスコミは彼の冒険をなぜか忌み嫌った。堀江青年がサンフランシスコに到着したニュースに接すると、一斉に非難。海上保安庁だったか、帰国次第逮捕すると発表。新聞は無謀青年と書く。だが、アメリカがリンドバーグの大西洋無着陸横断飛行に匹敵する歴史的な快挙だと賞賛すると、非難の声は減っていく。

 

「太平洋ひとりぼっち」の航海以来12年。1974年5月4日堀江謙一が今度は小型ヨット「マーメイド3世」で、西回りコースで「早回り世界新」の第1級の快挙を成し遂げた。

 

この時でも、島国根性は消えていなかった。自分ができないことを人がすると嫉妬を感じる国民性なのだ。ジェシカと堀江青年という男女の差もあろう。時代も違う。しかし、やったことを素直に認め、喜び、祝福する心が、島国日本には絶対に欠けている。ジェシカの船には無線もGPSも搭載されている。それに圧倒的なサポーター。堀江の船には、六分儀、コンパス、ラジオ、新品のディレクション・ファインダーくらい。無線も搭載していない。

 

ジェシカも批判の中での船出だった。だが、これは、〝失語症〟というハンディを抱えるジェシカが成し遂げた第1級の航海だ。私は、あの埠頭で、この乾燥大陸に、一緒に喜べる人々のいることを実感した。文豪ユゴーの言う「夢の岬」ではないが、「未来」を見据えた姿勢が大事だ。そういう歓迎が、次のヒーローを生むと、私は確信する。



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