オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

戦場から王宮へ

北村元

23/05/13









 ここは、ベトナム中部のフエ市。
ベトナムには、毎年枯れ葉剤被害者の支援で行くのだが、下見のために今年は6月中旬にフエに入った。6軒の枯れ葉剤被害者の在宅訪問を終えて、へとへとになってホテルに戻った。「フエ祭りはまもなく終わります」と、同行の大学の先生が教えてくれた。ならばと…ホテルを飛び出した。フォン川にかかるチャンティエン橋から、ベトナム最後の王朝の阮朝王宮までは指呼の間なのだが、町は人が多くてまっすぐには歩かせてはくれない。

なにしろ、フエには1945年まで王様がいらしたのだ。王宮のモデルは中国の紫禁城。ミンマン帝の時に創られ、カイディン帝の時に再建された王宮。Ngo Monと綴られる正午門は、正午になれば太陽が門の上に来るということで付けられた。この正午門でフィナーレの花火が始まった。シドニー・ハーバーの花火にくらべれば、あまりにもささやかだった。悔しい。三脚がない!

2層になった王宮門の上では、数人の青年が叩く太鼓が鳴り響いていた。相撲でいう、追い出し太鼓だろうか。1日の相撲興行の終了時に打つ、あの追い出し太鼓。野球賭博をやった親方も、この太鼓で追い出せ。打ち出し太鼓で、野球賭博の親方を打ち出してやれ。そして遊里には、追い出しの鐘と言うのもある。明け六つの鐘(午前6時)だ。泊まり客が帰るころ鳴らす朝帰りの鐘だ。これは別の世界の話だ。王宮の話を汚してはいけない。

かつてベトナム戦争の戦場となって荒れるに荒れた王宮は、ユネスコなどのおかげで見事に蘇った。フォン川のほとり、王宮、寺院、皇帝廟と風格ある建物群は1993年12月、ベトナム初の世界文化遺産に認定された。王様のいなくなった旧王宮前の広場で、かつて「ひとつの世界、ひとつの愛、ひとつの夢、ひとつの空」という歌が歌われたことを思い出した。とにかく平和がいい…。

祭りの熱気が残る正午門の前の広場を歩いてみた。フエ不滅の龍鳳凧は有名である。フエ凧という。もう10年以上も前、ベトナム支局に勤務している時に、バオダイ帝の末裔に凧をあげて頂いたことがあった。もうお亡くなりになったと思う。南部のヴンタウ省では、恒例のヴンタウ国際凧フェスティバルも行われる。戦争に苦しんだ国民が、空に風に開放感を求めているようでもある。人が散り始めた王宮前の広場で、売れ残ったフエ凧が夏の風に舞っていた。



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