オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

菜の花模様

北村元

23/05/13









 ワインカントリーと呼ばれるマジーからダボの方向へゆっくり車を走らせていた。ふと、遠くの丘陵に、切り取ったように黄色の広大な区画が広がった。近づいてみると、菜の花畑だった。川と丘陵の違いあるが、夏目漱石の「菜の花の遙かに黄なり筑後川」に近かった。車から降りると、菜の花の香りが広がっていた。思わず深呼吸して肺の中の空気を入れ替えた。
 

山村暮鳥の「風景 純銀もざいく」に書かれているそのままの「いちめんのなのはな」だった。菜の花は、食用、観賞用、修景用でもあるが、典型的な春を表す〝季語〟として親しまれてきたため、多くの人が〝菜の花〟を文学に取り入れてきた。

 

シャッターを切っているうちに、いつのまにか「おぼろ月夜」(高野辰之作詞…岡野貞一作曲)の「菜の花畑に入り日うすれ…」と口笛を吹いていた。この歌の菜の花は野沢菜ではないかという説もあるが、信じたくはない。

 

「なの花にうしろ下りの住居かな」と読んだのは、一茶だ。うまい表現だ。与謝蕪村は、享保元年(1716年) に、今の大阪市都島区に生まれた。私も大阪生まれ。なんだか気が合いそうだ。菜の花をいくつもの歌に詠みこんでいる。

 

菜の花を 墓に手向けん 金福寺 

菜の花や 鯨もよらず 海暮ぬ 

菜の花や 摩耶*を下れば 日の暮るる(*六甲の山)

 

そして…有名な…

菜の花や 月は東に日は西に

 

太陽が西・月が東…いかにも、日本人好みの情景だ。このとき、太陽と月は180度反対方向にあるわけだが、これで昔の人は満月であることを暗に意味した。夕暮れ時の美しさと満月のすばらしさが同時に眺められる場所は、建物が多くなった今となっては、限られてしまう。

 

こんな美しい光景を見た以上は、今晩は菜種のレシピで一杯いきたいところだが、いかんせん、ここはオーストラリア。せめて、炒り玉子を菜の花にみたてた「菜種焼き」がいいところか。

 

目の前に広がる菜の花は、油用か。これだけの菜の花がありながら、食材にしないとは…なんと味覚の無い国だ…だからメタボが多いんだぁ…ギラードさん、なんとかしてみなよ。定番の「菜の花のからし和え」が泣くでぇ。春のほろ苦い菜の花は、からしとの相性が抜群なんだが、夢のまた夢だ。

 

マジーじゃ、サンダルのようなステーキに荒っぽく切った野菜とチップス+産直の赤ワインの組み合わせか。「う~む、粋でないな。ギラードさん! 今晩は、菜種月ですよ」

 



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