北村元
25/06/13
芥川龍之介の「飜譯小品」の中の(三)に、鴉(からす)という題の訳文がある。
鴉は孔雀の羽根を五六本拾ふと、それを黒い羽根の間に插(お)して、得々と森の鳥の前へ現れた。
「どうだ。おれの羽根は立派だらう。」
森の鳥は皆その羽根の美しさに、驚嘆の聲を惜まなかつた。さうしてすぐにこの鴉を、森の大統領に選擧した。
が、その祝宴が開かれた時、鴉は白鳥と舞踏をする拍子に折角の羽根を殘らず落してしまつた。
森の鳥は即座に騷ぎ立つて、一度にこの詐欺師を突き殺してしまつた。
すると今度はほんたうの孔雀が、悠々と森へ歩いて來た。
「どうだ。おれの羽根は立派だらう。」(以下略)
結局、孔雀も、疑い深い森の鳥たちに寄ってたかって突き殺されてしまうという筋である。
知人が、オーバーン市のボタニカル・ガーデンにクジャクもいたと教えてくれたので、気軽に行ってみた。なんと運良く、私の前で、二度も飾り羽を広げ、さらに二度も泣いてくれた。実は、私の後ろに雌のクジャクがいたからなのである。
「羽根が華美であるほど、メスにモテるので、繁殖で有利である。ゆえに、羽根が華美なオスが子孫を多く残した」というこれまでのイギリスの学説がひっくり返って、クジャクのメスが交尾相手のオスを選ぶポイントは、きらびやかな飾り羽ではなく鳴き声だったことが、東京大学大学院総合文化研究科の高橋麻理子特任研究員らの研究で明らかになった。
高橋さんは、繁殖時期に特徴的なメスを待つ「ケオーン」という声と、メスが近くにいるときの「カー」という二種類の鳴き声に着目し、鳴き声と交尾行動の相関を調べた結果、「ケオーン」「カー」の音節が五回以上続くオスが、高い確率で交尾に成功していることが分かったという。「ケオーン」という鳴き声を連続的に出すオスほどメスに好まれることをつきとめたのである。
あの大きな面積を持つ飾り羽は、音楽界でいえば美川憲一さんか小林幸子さんだ。『美しい羽のオスがもてる』という神話が崩壊した今、なんで飛べなくなるほど大きな飾り羽が発達したのか、この春に解説してくれる人はいないものか?
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