オーストラリア・シドニーを楽しむための生活情報誌「チアーズ」

金色のウンコ

北村元

26/06/13




 














水上バスで、東京の隅田川を上っていた。「この先から、スカイツリーは右岸に見えるようになります」と船内アナウンスがあった。ビルの間に見え隠れするスカイツリーをカメラで追いながら、私は久しぶりに隅田川の風を受けていた。


 


すると、船の右岸の異物をさして、熟年の女性乗船客が「あれ、ウンコみたい」と、言った。クスンと笑いがこみあげてきた。固い物は「ウンコ」、柔らかい物は「ウンチ」とされるから、この熟年女性が使った表現は的を射ていると思う。


 


でも、この作品にも謂われはあるらしい。大金を投じてウンコを作るわけがない。金のウンコは、飛躍する某ビール会社を象徴するオブジェなのだ。燃え盛る炎を形象した「フラムドール(フランス語の金の炎)」と呼ばれるもので、某社の燃える心を象徴する「炎のオブジェ」と聞いた。


 


でも、どう見ても金のウンコにしか見えないのは、私に芸術性がないからだろうか。事実「ウンコビル」と言えば、東京のタクシーの運転手には十分通じるから恐ろしい。といわれて、少なからず不快な気分になる人が居るかもしれない。作った芸術家、そして所有者…。フランスの有名デザイナー、フィリップ・スタルクによる設計だという。


 


「炎」と言われても、炎は上に指向するもの。横に寝ているのだから…むしろ飛躍する某ビール会社というイメージよりも、「踏ん張る」「力む」「いきむ」というイメージが先行する。色々と考えているうちに、船は金のウンコ前に到着した。


 


その前日、偶然にも、ある親子の「ウンコ」にまつわるすばらしい話を聞いた。


 


ある時、お父さんとの会話のもつれから、お嬢さんが、父親に向かって「クソ爺(じじい)」と怒鳴った。お父さんは、怒らずに話した。「X子…お父さんにクソじじいと言ってもお父さんはいいよ。でもね、クソじじいということはウンコじじいということだよ。それを言ったX子は、ウンコ娘ということになるんだよ。それでもいいんだね」


 


立派なお父さんの諭しだった。このお父さんの一言が、お嬢さんに、深く考えるチャンスを与えた。お嬢さんは、また一歩大きく成長した。


 


昨年、このお父さんはお亡くなりになった。出棺を待つ棺(ひつぎ)を前に、お嬢さんが言った「お父さん、ありがとう」の一言に、深い意味と感謝と娘からの愛情が込められていたように思う。


 


ウンコを作るだけの、暗い、汚い、臭い臓器と思われている大腸(事実はそうではないが)からの排泄物の名を娘の名前の前にかぶせた、慈悲溢れるお父さんの見事な〝説諭〟は、娘が上向きにまっすぐ成長させる熱源になったのだ。


 


私も、このお父さんにお世話になった一人だ。




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