29/01/2015
「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使いました根っからの江戸っ子。姓名の儀は車寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します。」これは、第一作『男はつらいよ』の前口上ですが、その寅次郎が柴又に帰ってきた時の第二十一作『寅次郎わが道をゆく』で、参道を歩く顔なじみの備後屋にかけるあいさつが今回のタイトルです。世間でも、よほどの心が通じ合っていないと、交わせない言葉ですよね。これ、もともとは渥美清さんのアドリブでした。
お安く負けちゃうよ。なぜこんなにお安い品物かと言うと、本来ならばこれ輸出する品物ですよアンタ。なんで輸出ができないかというと、はっきり言っちゃおう! 今まで言わなかったんだ。わたくしが知っている東京は花の都、神田は六方堂という大きな本屋さんが、僅か百五十万円の税金で泣きの涙で投げ出した品物! だからこんなに安い。本来ならば文部省選定、衛生博覧会ご指定、大変な品物だこれ。これだけ安く売っちゃおう。英語の本なんか見てごらんなさいよ。英語、ずーっと書いてある。最もわかり易いよ、この英語見てごらん。あたしだって読める。NHKにマッカーサー、メンソレタームにDDT。こういう昔の古い英語から出てるんだから、買って頂戴よ。どう? はいっ! どうも有難うございました!
虎の絵、ね。どうぞお近くに寄って見てやってください。虎は死して皮を残す。人は死んで名を残す。私とて絵心のない人間ではない。自分の一番好きな絵は誰にも売り渡したくない。まして気に入らない絵は売りたいわけがない。いっそのこと、我が家の庭にある土蔵の中に全部しまっておきたい。
だが、私にも生活というものがある。里にはかわいい女房子供が口を開けて待っている。東京では1枚千円が二千円くだらない芸術品だが、浅野匠の守じゃないけど腹切ったつもりだ。
よし。まず、まかった数字がひとつ。ものの始まりが一ならば、国の始まりが大和の国、島の始まりが淡路島。ね。泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、博打打ちの始まりが熊坂長範。
続いてまけちゃおう。二つ、ね。兄さん寄ってらっしゃいは吉原のカブ。日光結構東照宮。憎まれ小僧が世に憚る。仁木の弾正お芝居の上での憎まれ役、ときた。
続いた数字が三。三三六法で引け目がないよ、産で死んだか三島のお千。四谷赤坂麹町、チャラチャラ流れるお茶の水。粋な姐ちゃん立ちしょんべん。…
角(かど)は一流デパートは帽子のとらやさんでお願いしてみなよ。え。高いものじゃ一万円ていうよ。ね。今日はそれだけくださいなんて言わない。安くしちゃうよ。どう、六千円で。
あはは。お母さん、慌てちゃいけない。慌てる乞食はもらいが少ない。どお? お父さんの帽子もサービス。ね。どお? つがったら二人の間に出来たかわいいチョロ松ちゃんの分まで。ね。三つだ、おら、三三六法で引け目がない。産で死んだが三島のお千。どお? こりゃぁね。輸出もんだから。三つだったら高いところで一万五千円。それだけくださいとは言わない。なぜかって言うと、今日は貧乏人の行列だから。お父さん、腹切ったつもり。ね。五千円、三千円、よし、千五百円だ。持ってけ泥棒よ。さぁどうだ。
まず、このグラフに注目されたい。厚生省が発表した日本人の身長のコレ、グラフであります。この赤い字が証明するように、戦後、日本人の身長は、外国人と匹敵するくらいどんどんと伸びております。しかし、それに反比例して日本人の体力はどんどんどんどん落ちている。これはなぜかというと、日本人は、つまりこの下駄を履かなくなったためであります。
ね。いいかいお母ちゃん。ほら、足の親指と人差し指、ね。この間に人間の健康を司るツボがあります。ここへ鼻緒をぐいと突っ込んで、ぐいぐいぐいぐい歩きながら、ココを刺激する。これは日本人の大発明であります。俺なんかほら、三百六十五日雪駄を履いているから、只のいっぺんも病気をしたことがない。
ただし、頭は良くないが、これはオヤジ譲りだから仕方がない。笑っている中学生! 退学!
たとえば、女性に好きだって言ってフラれたとするだろう? 心を開いて傷ついちゃったわけだ。でも、そのあとにいい仕事が来たりするんだよ。運が開けるんだね。人生は、そういうふうに全体的なバランスが取れるように、うまくできているんだよ。
例えば夕暮れどき、田舎のあぜ道をひとりで歩いている。ちょうどりんどうの花がいっぱい農家の庭に咲きこぼれている、電灯は明々と灯って、その下で親子が水いらずのご飯を食っている。そんな姿を垣根ごしに見たときに、アーこれが本当の人間の生活じゃねえかな、フッとそんなこと思ったりしましてね。
天に軌道のあるごとく人それぞれに運命というものを持っております。
今、自分がいる場所だけを見るんじゃなくて、三歩進んだ世界や、五歩下がった世界も見るってことだよ。そうすると、人生、どう生きていくかが見えるだろ。
夢を見るなら努力しな。腹が減ったら飯を炊け。
ザマ見ろい、人間はね、理屈なんかじゃ動かせねえんだよ。
世話をかけずに世話をして、世話にならずに世話をする。
どんな辛いことがあっても、必ず、夜は明ける。だったら、思い切り泣いて最後に笑えばいいんだよ。どんなことがあっても、最後は笑いなさい。クヨクヨしないで、泣き笑いの世界で生きればいいんだ。
人は一生懸命なフリをして自分を騙そうとするもんなんだ。自分てものが、まっ先に自分に嘘をつくんだ。そうすると、それは嘘じゃなくて本当になっちまう。だから、自分を騙してないか、一生懸命かどうか見抜くんだぞ。
ほら、見なよ、あの雲が誘うのよ。ただ、それだけのことよ。
さくら、おまえだって、目まで毛糸がほつれて垂れ下がっちゃったような犬のいる家に住みてえだろ。
昔から、早飯早糞芸のうち、と言って、私など座ったと思ったらもうケツを拭いております。この間などはクソをする前にケツを拭いてしまって、まあ親戚中で大笑い!
成功するかどうかは、実行するかしないかの違いだ、って聞くと、ほとんどの人は頭で考えただけで分かった気になってる。それじゃ、成功するわけがないんだよ。理解するんじゃなくて、腑に落とさなくちゃいけないんだ。腑に落とせば絶対に忘れないからな。
そりゃ好きな女と添い遂げられれば、こんな幸せはないけどさ。しかしそうはいかないのが、世の中なんだよ。みんな我慢して暮らしてるんだから、男だって、女だって。
上等上等温かい味噌汁さえありゃあ十分よ、後は御新香、海苔、鱈子一腹、ねえ、辛しの効いた納豆、これにゃあねえ生葱細かく刻んでたっぷり入れてくれよ。後は、塩昆布に生玉子でも添えてくれりゃもうおばちゃん何にもいらねえな。あれ、あ、昨日っから俺通じがねえんだ。
あきらめた喜びはな、期待した喜びより百倍嬉しいんだよ。
姉ちゃんは、何のために勉強してるんだい? 考えてみたこたあ、ねえかい? 己を知るためよ!
いい人生だったかどうかなんて、死ぬときにならないと分からないだ。生きている途中にはいろんなことがあるもんよ。だけど、最後に笑って死ねたら、それでいいのよ。
柴又帝釈天参道
天国も地獄もあの世じゃなくて、この世にあるのさ。だから、天使も悪魔もこの世にいるってことさ。
「こだわり」ってものがよぅ、商品を「本物」にするのよ。
レントゲンだってやっぱりね、ニッコリ笑って写した方がいいと思うの。だって明るく撮れるもの、その方が…。
鶴は千年、亀は万年。あなた百までわしゃ九十九まで、共に虱(しらみ)の集るまで。
労働者諸君! 稼ぐに追いつく貧乏なし、か。
お前ね、嘘でも絶好調です、って言っておくんだよ。そうすりゃ、ホントに絶好調になるんだから。
人を信じねぇってことは、自分を信じねぇってことに繋がるのさ。
失敗して落ち込んだら、二度と同じ失敗をしないで済むだろ? だから「もう同じ失敗はしないからよかった」って喜べばいいんだ。用心しなくちゃいけないのは、成功したときだ。調子に乗ると人間ロクなことがないからな。
労働者諸君! 田舎のご両親は元気かな。たまには手紙を書けよ。
俺、ラッキョ嫌いなんだよねえ、あれどこまで皮だかわかんないからさ。
お前と俺とは別な人間なんだぞ。俺が芋食ってお前が穴からぷーっと屁が出るか?
真実と事実の違いってものが、心を鍛えるんだよ。
財産で遺せるものは、品格と人格なんだ。そして、品格と人格がなければ一流には絶対なれないんだよ。その人の人生がどんなものだったのかは最期の瞬間に決まるのさ。
櫻って字を分解すると、二かいの女が木にかかる。努力のドの字を分解すれば、女のマタには力ありってね。
柴又帝釈天
ハハア、そりゃ完全なイロノーゼですよ。…尻ッペタの青いインテリがとかくかかりがちなイロノーゼってやつですね。つまり、色気ってものが頭にのぼってくるからそれぜイロノーゼです。これはすぐ治るんじゃないですか。
おい、俺に恋をしたことがありますかと聞くのか? 恐れ入ったね、これは。いいか青年、俺の人生から恋を取っちまったら何が残ると思う? ただ飯を食って屁をたれるだけのうすみっともない獣よ。なぁ、おいちゃん。
貧しいねぇ、お前たちは。どうして金のことばかり言うんだ。金なんかなくたっていいじゃないか、愛があれば。
御前様にお尋ねします。亭主に死に別れた女房が他の男と再婚する場合に、やはり一周忌までは待つべきでしょうか。それとも三回忌まではがまんしなきゃならないもんでしょうか。そのへんのところは、お経には何と書いてありますか?
恋っていうのは、自分の都合のいいときにできるものじゃないんだ。ある日突然風に乗って恋の種は人の心に宿る。やがて芽を出し、蕾になり、そして花が咲く。運命だ、これは。
若いときっていうのはな、胸の中に炎が燃えている。そこへ恋という一文字を放り込むんだ。パァーッと燃え上がるぞ!
思っているだけで何もしないんじゃな、愛してないのと同じなんだよ。愛してるんだったら、態度で示せよ。
いいか、恋ってのはそんな生易しいもんじゃないんだぞ。飯食うときだってウンコするときだって、いつもその人のことで頭がいっぱいよ!
もう、その人のためなら何でもしてやろう、命だって惜しくない、寅ちゃん、私のために死んでくれないって言われたら、ありがとう、と言ってすぐにも死ねる、それが恋というものじゃないだろうか…どうかね、社長?
一日中じいっとその顔を見ているな、俺は。夜だって寝やしないよ、スヤスヤ軽い寝息をたてる美しい横顔をひと晩中だって見ているよ、俺は。いいんだよ、食わなくたって。あんなきれいな人と一緒に暮らせたら、死んだって平気さ、俺は。
ああ、この人を幸せにしたいなぁと思う。この人のためだったら命なんかいらない、もう、俺死んじゃってもいい、そう思う。それが愛ってもんじゃないかい?
参道
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