2月1日にメルボルンのAAMIパークで行われたメルボルン・シティ戦に登場した日本人選手2人。田中裕介選手(3番)は初出場でフル起用、髙萩洋次郎選手(10番)は開始5分で初得点を決める快挙を成し遂げた。続く2月8日のホーム戦にフル出場した田中選手は、一点目のアシストを決め今期リーグ初勝利に貢献した。小野伸二選手の2年契約が終了し、日本人ファンの足が遠のいているウェスタンシドニーワンダラーズ(以下WSW)に今、新風が巻き起こる。
来豪からもうすぐ1ヵ月、環境には慣れましたか?
高萩選手:家も決まったのでだいぶ落ち着いてきましたね。
田中選手:そうですね、やっと慣れたという感じです。
初の海外クラブチームとの契約と伺いました。マイノリティの人種の立場でするサッカーはやはり違いますか?
高萩選手:日本では母国語でコミュニケーションも普通にできるのが当たり前の環境で、慣れた土地で慣れた常識でサッカーをしてきたことを考えると、すべてがガラッと変わりました。言葉や生活のスタイルも違うので、ひとつ一つの新しい発見が刺激になっています。
楽しめていますか?
高萩選手:凄く楽しいですね。
選手間のコミュニケーションはうまくいっていますか?
田中選手:コミュニケーションの部分も大体は理解しているつもりでいます。それほど問題はないかなと思います。
高萩選手:来て3週目になりますが、最初よりはだいぶコミュニケーションをとれるようになってきて、向こうからも話してきてくれるようになりました。言葉は足りないかもしれないですけど、積極的に話しかけるようにしています。
両選手とも、WSWとは昨年のAFCチャンピオンリーグ(ACL)で対戦していますが、どういう経緯で今回移籍が決まったのでしょうか?
高萩選手:以前から英語圏の国で海外のクラブへの移籍を祈願していました。海外試合があるさいはいつも楽しみで、チャンスがあれば結果を出して目に止まればいいなと思っていました。移籍先を探していたところ、WSWからオファーをいただきました。
入団する前のワンダラーズの印象は?
田中選手:去年のアジアチャンピオンであり、サポーターが熱くて盛り上がっているチームという印象ですね。
昨年のアジアチャンピオンであるも、現在はリーグで勝星ひとつで最下位という厳しい状況ですが、どう感じていますか? またチームに何を求められていますか?
田中選手:得点も少ないですので、まず量の部分で、攻撃のチャンスを増やすことですかね。サイドバックとしてまずしっかり守りながら、攻撃の面でチャンスメイクしたり、ゴールしたりというところですね。
高萩選手:僕は攻撃のポジションにいるので、ゴールを奪うことだったり、ゴールに繋がるようなパスだったり。それと中盤でしっかりボールを納めて、ボールをキープコントロ―ルするということも大事だと思っています。
日本人ということで、来豪前から、以前在籍していた小野伸二選手と比べられることがあると思います。それに対するプレッシャーは感じられますか?
高萩選手:いや、あんまりオーストラリアのTVや記事を見ていないので、気にはしてないですが、伸二さんが作り上げた日本人のいいイメージを崩したくないという思いはありますし、さらに良いイメージをファンの方に与えて行けるようになれたらいいなと思います。
田中選手:そこは、意識はしていないですね。チームにとってレジェンドの存在だった伸二さんのようにファンに愛されたいという思いはありますが、プレッシャーにはないっていないです。
来豪前には小野選手からアドバイスを受けるなどされましたか?
高萩選手:以前ACLで対戦したさいに話す機会があって、オーストラリアのよさを教えてもらいました。そのとき伸二さんはもう退団が決まっていたので、「僕みたいな選手がまた出てきてほしい」と言っていたのが印象的でした。
田中選手:契約が決まる前に一度コンタクトさせてもらいました。「迷っているなら行った方がいいよ、いいチームだし。日本とは多少違うけど、行くことで見えることがあるから」と言ってくれました。その言葉が追い風にはなりましたね。
なるほど。そんな小野選手が所属していた頃、WSWのトレーニングは、得にフィジカル面が過酷と言っていましたが、実際体験してどうでしょうか。
高萩選手:日本だと、個人でジムに行って筋トレというのが多いんですが、WSWはチーム全員でフィジカルのプログラムが組まれているので、フィジカル面の強化には、かなり力を入れていると思います。心拍数や走行距離、運動量も常に測定して管理しています。そういう意味で設備やトレーニング技術は進んでると感じました。
田中選手:走りの面やフィジカル面などは日本と比べるとウェイトを占める割合が多いという印象は受けました。日本は技術にフォーカスした練習が多いのですが、僕も日本にいるときに、フィジカルを高めたいという気持ちがあったので、個人的にはそこでさらに伸びることができるのかなという期待があります。
高萩選手の背番号10番はご自身で選ばれましたか? 10番を背負うことのプレッシャーなどは?
高萩選手:チームから空いている番号を教えてもらって、その中から選んだんですが、広島でも10番をつけていたので、10番を選びました。それ以外の番号にはあまりこだわりはありませんでした。
高萩選手のデビュー戦となったメルボルン・シティ戦では、前半開始5分にゴールをあげています。そのときのお気持ちを教えてください。
高萩選手:僕としてはあの距離からシュートを狙ったわけではなく、クロスだったのですが…。僕が蹴ったところからボールがよく見えなかったので、入ったかどうか分からなくて一瞬「えっ?」っていう感じでしたが、ラッキーでしたね。
セレブレーションには〝相撲〟をしていましたね。
高萩選手:前日から田中選手と、ゴールを決めた後には日本の文化を知ってもらえるようなパフォーマンスを一緒にやろうって話していたんです。日本の文化をもっと大勢のファンに知ってもらえるように、これからも広めていきたいと思います。
WSWのポポビッチ監督も現役時代はディフェンダーだったことから、WSWのディフェンスは高く評価されているようです。実際に豪代表のスピラノビッチ選手も入団前、オジェック前オーストラリア代表監督にWSWでディフェンスの練習を勧められて入団した経緯があるのですが、田中選手は、それを実際に肌で感じてみていかがでしたか?
田中選手:非常に細かくラインの上げ下げも行っているし、最後のところで守りきれる強さがありますね。ただそうは言っても、攻められっぱなしではどうしてもいつかやられてしまうので、攻撃ありきのディフェンスを監督が求めています。マイボールの時間を増やして、攻守の切り換えをきっちりやって継続していけば、今後は失点も減るはずです。

昨年のACLに続き、アジアカップも開催国のオーストラリアが優勝し、アジアを制したような形になりましたが、オーストラリア代表のサッカーをどのように思いますか?
田中選手:リーグではいろんなチームが代表チームと同じようなシステム4バック3トップ気味でやっていて、クラブと代表とが密接しているイメージがありますね。オーストラリア代表の試合は何試合か拝見しました。監督の意向なのか、しっかりボールを繋ぐイメージが強く、昔のオーストラリアの大味なスタイルとはだいぶ違って、進化している印象を受けました。
高萩選手:凄くいいサッカーしているし、素晴らしい選手が揃っています。チームがまとまって組織的なサッカーができているという印象ですね。
高萩選手は日本代表としてのプレイ経験をお持ちですが、今回の日本代表の結果をふまえて、アジアのサッカーをどのようにとらえていますか? 他のチームは若手選手の活躍が目立ったようにも思えました。
高萩選手:アギーレ監督の就任がワールドカップの終了後に決まってから、アジアカップまでの間、期間が短かったので、ワールドカップで戦った選手を中心にやらざるを得なかったのかなというのはあります。これからまたJリーグが始まって、若い選手が活躍して、どんどん代表に選ばれていけばいいですね。フレッシュな選手が入って新しい日本のサッカーが生まれるんじゃないでしょうか。
今回はACLの短期契約と伺っていますが、ACLで成績を残し、来シーズンのAリーグでプレイしたいというお気持ちはありますか?
高萩選手:せっかくオーストラリアに来たので、契約期間の中でしっかり活躍してアピールをして、半年で終らせずに、来期リーグでも契約してもらえるように頑張りたいと思います。
田中選手:そうですね。契約上ではACLのみの契約になっていますが、すでにフルタイムで出場していますし、来た以上はACLだけではなく、Aリーグでもしっかりひとシーズン戦ってみたいと思っています。
2月25日に日本で行われるACLの鹿島アントラーズ戦では、日本人相手に戦う形になりますが、どのような心境ですか?
高萩選手:なかなかアウェイの立場で日本に行くというのはないので、それをしっかり楽しみたいですね。久しぶりに日本に帰れるのも嬉しいです。
田中選手:日本では鹿島とも試合をしてきましたので、ある程度どんなサッカーをしてくるのかというイメージは持っていますが、まあ僕らは目の前の試合のひとつとしてやるだけですね。もちろん心のどこかでは、対日本人で燃えるという気持ちもありますよ。
日本のファンに一言お願いします。
高萩選手:オーストラリアでもしっかり結果を出して、日本のニュースにも活躍する姿が映るよう、頑張りたいと思っていますので、遠いですけど日本からも応援してほしいと思います。
オーストラリアにいる日本人へ一言お願いします。
田中選手:シドニーは結構日本人が多く、伸二さんがいた頃のパラマタスタジアムはいい雰囲気だったと聞いています。伸二さんのようにまた日本人が活躍して、皆さんがスタジアムに足を運んでくれるように頑張りたいと思います。
田中裕介
背番号:3番
年齢:28歳
生年月日:1986年4月14日
出身地:東京都八王子市
身長:181cm/体重:77kg
小学校からプロを目指し、2006年に横浜F・マリノスからJリーグデビューを果たす。2011年に川崎フロンターレへ移籍。持ち前の走力に加え、積極的にゲームメイクにも加わるサイドバック。周りとのコンビネーションで右サイドを破り、自らも積極的にゴール前に入り込んでいくスタイルが持ち味。WSWでの2戦目で、アシストを決め、今期リーグ初勝利へ貢献する。
髙萩 洋次郎
背番号:10番
年齢:28歳
生年月日:1986年8月2日
出身地:福島県いわき市
身長:183cm/体重: 70kg
福島県出身として初の日本代表選手。2003年にJ2デビューし、サンフレッチェ広島における公式戦最年少出場記録保持者(16歳8ヵ月3日)。2006年に愛媛FCへレンタル移籍し、愛媛FCの躍進を支え、2007年に広島に復帰。非凡なボールコントロール能力を備え、豊富な運動量を基盤にあらゆる攻撃の場面に顔を出し、精度の高い長短のパスを駆使するファンタジスタ。WSWでは初出場5分で得点を挙げている。