09/02/2018
『メアリと魔女の花』
スタジオポノック 豪華インタビュー
2013年、『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』などで世界的に知られるスタジオジブリの宮崎駿監督が長編アニメーション映画からの引退を発表し、制作部門が解散(その後2017年に引退を撤回)。翌年、長きにわたりスタジオジブリで活躍してきた西村義明プロデューサーが『借りぐらしのアリエッティ』や『思い出のマーニー』の米林宏昌監督の新作映画を作るために新たなアニメーション制作会社、スタジオポノックを立ち上げた。「ポノック」とはクロアチア語で「深夜0時」を意味する、すなわち新しい1日の始まりだ。世界から注目が集まるスタジオポノックが、長編第1作に選んだのは、イギリスの作家、メアリー•スチュアートの「The Little Broomstick」を原作にした『メアリと魔女の花』。今回弊紙は、オーストラリアでの公開を記念して、西村義明プロデューサー、米林宏昌監督、そしてスタジオの国際部部長を務めるウェクスラー・ジェフリーさんの3名のインタビューを行った。この物語に秘められた彼らの熱い思いをお届けしたい。
オーストラリアでは1月18日に『メアリと魔女の花』が公開されました。海外ではこれで何ヵ国目の公開になるでしょうか?
西村:8ヵ国目の劇場公開となります。現在のところ155ヵ国・地域での上映が決まっています。
2016年の12月に行われた制作発表後は、オーストラリアを含め、世界155ヵ国からのオファーが殺到したと伺いました。
西村:制作発表したときに僕らが作った30秒の動画を英語字幕つきでYou Tubeにあげたとき多くの国の方々から興味を持っていただきました。ゼロから始めた無名のプロダクションだったので、米林監督が作った30秒の映像を見て世界の方々から配給のオファーが来たときは本当に嬉しかったですね。みんな待っていてくれたんだな、って。それを心のささえにしていたというのはありますね。
公開後はどのような反応があったでしょうか?
西村:すべての反応はわかりませんが、多くの方に楽しんでいただいている、メアリがとても可愛いという反応が多いと聞いています。
当初から日本だけに限らず、海外でも公開したいという思いはありましたか?
西村:もちろんありました。スタジオジブリに在籍していたときは海外公開できるというのは当たり前のように感じていた節もありまして、ゼロからとなったいま、自分たちで地道にやっていくので、海外公開できたらいいなとは思っていました。こんなにも多くの国で公開できるとは思ってもいませんでしたので、本当に嬉しいです
スタジオポノックの長編第1作品にメアリー•スチュアートの『The Little Broomstick』を選ばれた理由を教えてください。
西村:米林監督の3作目を考える上で、監督と相談して考えたのが、前作『思い出のマーニー』と逆のことをやってみようということでした。『思い出のマーニー』は、ある小さな村を舞台に、内声的な心の中を描く、静的な映画でした。そうではなくて、元気な女の子が、米林監督が得意とするダイナミックなアニメーションで動きまわっていて、もう少し広い世界を動きまわるようなアニメーション映画を書いてくれませんかと話しました。米林監督も同じ思いで、そのときに見つかったのが『The Little Broomstick』 でした。この物語の主人公、メアリは原作の中で、「魔法を使わない」と自分で決意する瞬間があるんですね。ティブという猫をさらわれてしまい、メアリが助けに行こうとするんですが、扉を開けるのに魔法を使ってはいけない、どんなに時間がかかっても、いつもどおり自分の力で開けて出て行かないといけない、というセリフがあるんです。「魔法を使わないで扉を開けて、自分の力で出て行く」というセリフが、僕はプロデューサーとして、米林監督の姿が重なったんです。スタジオジブリという魔法を使わず、自分たちの足で1本の映画を作りきらないといけないという、米林監督が置かれている状況と、メアリのセリフが僕の中ですごく重なったので、これは米林監督が描く3作目の題材にはふさわしいのではないかと思い、米林監督に提案しました。
この児童書のどう言ったところに力を入れたい、表現したい、と当初思われましたか? また見るものにどのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか。
米林:原作はとても面白くて、次の作品でやりたかったアクションもたくさんありましたが、映画として公開するためには、もうちょっとテーマ性を入れたいと思いました。原作に「変身」というテーマがあります。魔法学校の校長先生が動物を変身に使っていて、メアリがその魔法を解き放つというシーンがあるのですが、この「変身」が、映画の題材のひとつになるのではないかと思いました。メアリは、はじめは自分の髪の毛のことが嫌いだったり、自分が置かれている状況が気に入らなかったりと、ふてくされている女の子でしたが、冒険を通してどんどん変わっていきます。自分のことばかり考えていた少女が、誰かを助かるために動こうとする、そういうメアリの変わっていく、変身の物語としても描かれます。また、校長先生や科学者がやろうとしていた他人を変身させて違うものに作り変えようという、そういうちょっと怖い、壮大な実験物語といったものがミックスしていけば、現代における魔女の物語ができるのではないかと思いました。今この世の中は、信用とか人の噂とか、目に見えない魔法のようなものに翻弄されていると思うのですが、「自分の足で立って歩いていく」という物語ができたら、今日の新しい魔法の物語ができるのではないかと思いました。
オーストラリアでは、あらゆるメディアでハリーポッターのような世界が加わった、次世代「魔女のキキ」と紹介されています。日本のキャッチコピーでも、「魔女、ふたたび」という表現をされています。実際、このようなことを意識して作品を作られたでしょうか。
西村:魔法や魔女の物語というのはたくさんあるのですが、僕たちがやろうとしていたのは、何の力もない人間の物語です。メアリという少女は魔法使いでも何でもなく、普通の女の子です。ひょんなことから魔法の力を手に入れてしまうんですが、それを自分でどのように扱うか、この女の子が最後にどういうことを思い、魔法と対立し、力を退治するのか。なので意識したことはありませんね。ただひとつ言えるのは、『魔女の宅急便』という、宮崎駿監督が作った傑作がありますから、僕たちは傑作と思っていますから、それとは違うものを作りたいというはありました、「魔女、ふたたび」というところが何ども現れるんです。内容を話すとネタばれしてしまうので、言いませんが、「魔女、ふたたび」というコンセプトを宣伝キャッチコピーにした、ということですね。
映画の吹き替え版を制作するにあたり、どういったことを基準に声優さんを選ばれたのでしょうか。
ウェクスラー:まずは、作品を翻訳し、そこから新たな台本を書きました。これをベースにキャスティングエージェントとともに、どういった人物がキャラクターに適しているのか探りました。バジェットもありますし、どのキャラクターに、どういった評判のある方を起用するかなどを話しました。でも一番大事なのはキャラクターで、そのキャラクターの性格ですね。また日本語の声優さんの個性も変えたくなかったので、それも基準に考えました。私は声優さんが放つエネルギーにも注目しました。そういう意味ではライブアクションフィルムのプロセスとはあまり変わりませんね。
メアリは不器用だけど、自分が招いた試練を解決しよう、他人の助けになろう、といった覚悟をもったキャラクターです。このようなエネルギーを、映画『BFG』でも知られるルビー•バーンヒルさんに感じました。またマダム•マンブルチュークは、あか抜けた、プライドが高いけれど時には可愛らしい、腹黒いようで実は善良なキャラクターなのですが、才能あふれるケイト•ウィンスレットさんがなら上手に表現できると思いました。彼女自身役を作る上でさまざまなアイディアを持っていて、作品に貢献してくれました。ドクター•デイの声優にジム•ブロードベントさんを起用できたこともとても光栄に思っています。イギリス映画界のロイヤリティですね。イギリス映画をご存知でない方も、ハリーポッターに出演したことで知っていると思います。彼はあらゆる役で知られていて、とてもプレイフルで、声や演技でドクター•デイの奇抜なキャラクターを演じてくれたと思います。
外国の声優さんにキャラクターを演じてもらうにあたり、監督のこだわりや思いを伝えることは大変でしたでしょうか? 言葉や文化の壁はありましたでしょうか?
ウェクスラー:まったくありませんでした。それが私の、私のチームの仕事であります。私は台本とともに生活していたと言えるくらい、作品の内容や監督たちの思いを理解していたので、声優さんがスタジオ入りした時には準備万端でした。今回はイギリス人のディレクターもいました。とにかく文章だけでなく、テーマや監督の思いを伝えることができ、とてもスムーズに進んだと思っています。声優さんたちも、プロデューサーや監督にとても興味を持ち、彼らの思いをオープンに受け止め、できるだけ日本語版と同じものを届けたい、という思いでやってくれていました。
西村プロデューサー、そして米林監督は長きにわたり、スタジオジブリに携わってこられました。ジブリから受け継いだ志を作品に反映させたい思い、それと同時に、ジブリではない、ジブリを超えたい、といったような様々な思いを抱えていたのではないかと思いますが、実際、どのような思いで制作を進めてきたのでしょうか。
西村:米林監督は約20年、僕は13年スタジオジブリにいたんですけど、不思議に思われるかもしれませんが、ジブリを超えたいとか、ジブリではないものを作りたいという思いは持ってないんですね。作品作りで一番大事なのは、いい作品を作ろうということと、誰に見てもらいたいか、誰にどう思ってもらいたいかで、米林監督と企画して、「これ子供たちが喜んでくれるかな」という言葉は米林監督からたくさん聞きました。絵コンテをやっているときもアニメーションを作っているときも、「自分たちが見せたい人に、自分たちが伝えたいことを届けたいんだ」という思いで作ってきました。ゼロからやっているので、不安はありました。完成できるかな、お客さん見てくれるかなって。でもその不安を払拭できたのは、自分たちがスタジオジブリでちゃんとみんなで作ってこられた経験と、子供たちに楽しんでもらいたいという純粋な思いがあったからだと思います。
米林:僕も約20年間スタジオジブリでアニメーターとして、宮崎駿監督の作品に多く参加させていただきました。宮崎さんは素晴らしい監督であると同時に、素晴らしいアニメーターであります。そんな宮崎監督から直接アニメーションの技術を教えてもらってきたというのは、僕にとって宝物、財産であると思います。ジブリで学んだアニメーションを受け継いでいくというよりは、学んだことは新しいスタジオでも役立てたいという思いはありました。僕自身が、スタジオジブリのアニメーションが好きだというのが第一にあると思うんですけどね。ジブリで学んだことは、実際今ある世の中のものを観察して、それをどう描写していくか、登場人物の心の動きをアニメーションでどう描くことができるかということです。作品を伝えていく上で、アニメーションは気持ちを伝えるのにすごく有効的な手段だということをスタジオジブリで学んだので、それを新しいスタジオでも、メアリもそうですし、これからの作品を作っていく中で、心にあると思います。
また、スタジオジブリではなく、他のものを作りたいというよりは、新しいものを作っていきたいというのは、これまでやってきたことですし、これからもやっていきたいです。宮崎駿監督も常に新しいことに挑戦されています。だからこそスタジオジブリの作品は飽きられずに見てもらえるんだと思います。それは僕たちもやっていかないといけない。心に変わらずあるものと共に、新しいこともトライしていく、変化させたいというような。
「魔法は いつか解けると 僕らは知っている」という歌い出しから始まるSEKAI NO OWARIの主題歌「RAIN」が映画に非常にマッチし、歌自体も大きなインパクがあるように思えました。どういった思いでSEKAI NO OWARIと主題歌の制作を進めたのでしょうか?
米林:前作『思い出のマーニー』、そして前々作『借りぐらしのアリエッティ』を作ってきて今回特に思ったのは、映画を見終わった後みんなが口ずさめるような主題歌が最後に流れたら嬉しいなということです。SEKAI NO OWARIさんの楽曲は聴いていたんですけど、すぐにメロディーがすーっと心の中に入ってくるような曲をたくさん作られていたので、SEKAI NO OWARIの皆さんと、新しくこの映画の主題歌を作りたい、映画を見た人に、口ずさんで歌ってもらえるような歌を、映画のことを十分に説明した上でお願いしました。実際「RAIN」という曲が初めてあがってきて聴いた時も、一回聴いただけで口ずさんでしまうような曲で、これはみんなにも楽しんでもらえるのではないかなと思いました。
メアリと魔女の花は日本アカデミー賞で優秀アニメーション作品賞にノミネートされています。今のお気持ちをお聞かせください。(授賞式は3月2日)
西村:権威ある賞に選ばれたことは光栄ですし、選んでいただいた方に感謝しています。それと同時にたくさんのお客さんに見ていただいたからこそこういう栄誉ある賞にノミネートされたと思いますし、お客さんにも楽しんでもらえて感謝しています。
世界的に3Dアニメが主流となりつつある現代において、手書きにこだわる理由をお聞かせください。
米林:手書きにこだわっているというか、僕が手書きでアニメーションを描いてきたということが一番大きいと思うのですが、手で書いたアニメーションというものはお客さんに伝わるということを、身をもって知っています。それが今回作品を手書きでやったという理由でもあります。同時に、たくさんの手書きのアニメーターとこれまでも一緒に仕事をしてきたので、この人たちがどういう風な仕事をするのかということを十分に知った上で、今回の作品に臨むことができました。なので3Dアニメを作るとか、手書きで作るとかという以前に、何をどういう手段を使えば、お客さんに言いたいことが伝わるか、楽しんでもらえるか、それを大事にしています。
最後に、これから映画を見られる方にメッセージをいただけますか?
米林:映画だけで閉じてしまう世界ではなくて、映画を見終わった後、自分の物語になっていってくれていたら嬉しく思います。今回、「変身」ということを一つの題材にして映画を作りました。それは新しく変わって、自分なりの新しい一歩を踏み出すというもので、メアリが映画の中でやっていたことですが、お客さんも見終わった後に、自分がやりたい新しいことに一歩踏み出せるようになる、そういうお手伝いができたら嬉しいです。メアリを見て勇気をもらったとか、元気が出たとか思っていただければ嬉しいなと思います。
◆脚本・監督/米林宏昌(よねばやし・ひろまさ)
1973 年、石川県。1996 年にスタジオジブリに入社し『もののけ姫』(97 年)、『ホーホケキョ となりの山田くん』(99 年)では動画、『千と千尋の神隠し』(01 年)で初めて原画を担当。その後、『ギブリーズepisode2』(02 年)、『ハウルの動く城』(04 年)、『崖の上のポニョ』(08 年)で原画を、『ゲド戦記』(06 年)では作画監督補を務めた。また、三鷹の森ジブリ美術館オリジナル短編作品『めいとこねこバス』(02 年)では演出アニメーターを担当したほか、企画展示用映像『空想の空とぶ機械達』(02 年)の作画監督、常設展示フィルムぐるぐる上映作品『進化論』(08年)の絵コンテ・演出など、展示用作品も手がけている。2010年に公開した『借りぐらしのアリエッティ』では初監督に抜擢。その年の邦画 NO.1 となる、観客動員 765 万人・興行収入 92.5 億円を記録。2作品目の『思い出のマーニー』は第 88 回米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門にノミネートされた。『メアリと魔女の花』は監督として3作品目となる。
◆プロデューサー/西村義明(にしむら・よしあき)
1977 年、東京都。02 年、スタジオジブリに入社。宮崎駿監督初のTVCM『おうちで食べよう。』シリーズ(04 年、ハウス食品)から宣伝業務に関わり、次いで『ハウルの動く城』(04 年)、『ゲド戦記』(06 年)、『崖の上のポニョ』(08 年)の宣伝を担当。スタジオジブリ洋画アニメーション提供作品『王と鳥』(06 年)、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー作品『チェブラーシカ』(08 年)で宣伝プロデューサーを務めた。企画制作に約8年を費やした初の長編プロデュース作品『かぐや姫の物語』(13 年、高畑勲監督)が、第 87 回米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門ノミネート。長編2作目となる『思い出のマーニー』(14年、米林宏昌監督)が、第 88 回米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門にノミネートされた。2015 年4月に、アニメーション制作会社スタジオポノックを設立し、代表取締役/プロデューサーを務める。
◆スタジオポノック国際部部長/ウェクスラー・ジェフリー
スタジオポノックで国際部の責任者を務める。映画のみならず、音楽や出版物などの世界への配給、作品の英語字幕や吹き替え、原作や音楽の権利獲得など、スタジオポノックの国際的なイニシアチブを全般にサポート。スタジオジブリでは6年以上にわたり同職で活躍。『コクリコ坂から』(2011)、『風立ちぬ』(2013)、『かぐや姫の物語』(2013)、『おもひでぽろぽろ』(1991)、『思い出のマーニー』(2014)の英語字幕及び英語吹き替えのプロデューサーを務め、宮崎吾朗監督のテレビアニメ『山賊の娘ローニャ』の英語吹き替えを担当。『メアリと魔女の花』の英語字幕及び英語吹き替えのプロデューサーを務める。
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