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Cheers インタビュー


ファッション・デザイナー

五十川明

01/07/2010

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"オーストラリアの誇り"として、この国において最大の称賛を持って敬慕されるファッション・デザイナー、五十川明。パリコレの常連として世界で活躍する日本人デザイナー、そのルーツは"ワーホリ"であった。大きな夢を描くこともなかった素朴な少年が、なぜ今この地点に立っているのか? その道程を繋ぐ、心の奥のラインを辿った。

2010年の秋・冬コレクションですが、どういったイメージでお作りになったのでしょうか?

シーズン毎にテーマや趣向を変えて、新しいコレクションを出すというよりは、〝春・夏〟〝秋・冬〟〝リゾート〟と年に3度発表する中で、前回のコレクションの続きというか、足りなかった部分を加えたり、色を足したり、といった具合に変化をつけるようにしています。具体的には下半身にボリュームをつけて、新しいプロポーションが生まれれば、という気持ちでバランスを崩してみました。ただ、やはりバイヤー(買い手)の立場になって、以前に購入して頂いた服とまたコーディネートできるものを提供したいと考えていますので、趣向をガラッと変えるということはありません。

コレクションを作成するにあたって、〝流行〟といったものは意識されますか?

ファッションが好きだからこの業界にいますし、ファッションが好きだということはやはり流行も好きです。ただ、それを自分の作品に取り入れようという風には思わないです。自分の着る服に関しては、時代の空気を掴む感覚で新しいものを購入することはありますが、それを意識して作品を作っていこうという気持ちはないですね。

次に控える2011春・夏コレクションについてはすでにイメージされていますか?

今年の10月に作品を出す予定でいて最近、生地の制作を始めたばかりです。生地を作るのに6週間から8週間かかるので、もう今の時点から進めておかなくてはいけません。今は色や柄をイメージしているところですが、春・夏なので明るく、はっきりとメリハリのついた作品ができればと考えています。

クリエーターとしての五十川さんにインスピレーションを与えてくれるのはどういったものですか?

色々なものから受けますが、1年に二度パリでコレクションを発表する中で、現地でのお付き合いや現地のフリーマーケット、新しい出会いといったものが、ハッとするようなインスピレーションを与えてくれたりします。また、シドニーにいるときでもスタジオでスタッフの人たちと会話をしていてアイデアが生まれたり、故郷の京都に戻ったときにフリーマーケットへ足を延ばして、古着などを購入するのもいい刺激になりますね。

五十川さんのデザインにはさりげなく和のテイストが取り入れられていますね。

自分自身の作品を客観的に見て、柄のモチーフのアイデアや色使いといったものが着物から生まれてきているなと感じます。それと西洋の典型的な服作りは、体のラインに沿うように形付けて作るというのがメインのスタイルだと思いますが、私はそういったものを前提にしてはいません。自由なシルエットといったものも西洋のそれとは違う形として現れていると思います。

ご自身が着る服は、普段どこで購入されるのですか?

シドニーにいるときはいつも忙しくて、あまり買い物もできないのですが、海外に行って、ちょっとゆっくりできるときにふらっと服を見に行くことが多いですね。パリではいつも滞在するホテルに近いこともあって、マルタン・マルジェラによく行きます。マルジェラの古着は一緒に着たときに馴染む感じがあって好きですね。

小さな頃から服作りには興味をお持ちだったのですか?

服は日本にいた頃は一切作ったことがなくて、オーストラリアに来てから「作りたい」と感じるようになりました。それでTAFEのデザイン科に入学するにあたって、ミシンを購入して作り始めたのが最初です。ただ、小さな頃から絵を描いたり、デザインしたりするのは、好きというか、得意でしたね。練習もしないのにすらすらできるっていう感覚はありました。

その当時のいわゆる〝子供のころの夢〟はどういったものでしたか?

大きな夢みないなものはまったく持っていませんでした。日本の小学校の卒業アルバムに、「プロゴルファーになりたい」とか、「パイロットになりたい」といった風に夢を書くというのが定番としてありますけど、私はそこに『普通の会社で、普通の生活をしたい』と書いたのを覚えています(笑)。そういうことを書いてしまうぐらい、本当に大きな夢みたいなものはなかったのだと思います。 そういう子供が海外在住のファッション・デザイナーになっているのですから皮肉ですね。 本当に皮肉なものですね(笑)。

86年にワーキングホリデービザで来豪されていますが、海外に出てみようと思った動機を教えていただけますか?

高校生のあたりから海外というのは一度経験してみないといけないなと思っていました。日本だけが世界ではないので、それ以外の世界を見てみたいという、好奇心みたいな部分が強かったですね。ただ、海外に住み着くという意識はなくて、1年だけでも経験したいという感覚でした。

ワーホリを終えて一旦帰国されてから、またオーストラリアに来られたということですが、五十川さんを呼び戻したものとは何だったのでしょうか?

2つの要素がありました。まずはオーストラリアの生活に1年間どっぷりと浸かってから帰国となったときに、日本でのサバイバルを想定して、「大丈夫かな?」という不安があったこと。もうひとつは、またオーストラリアの空気が吸いたいなと感じたこと。戻って、また何かまったく違うことをやってみたいなと思ったんです。〝普通の生活をしたい〟と考えていた少年が、オーストラリアで1年過ごしたことで、もっと色々と経験したいと感じるようになっていたんですね。

考え方に変化があったということでしょうか?

考え方は…どうでしょう? 1年を経て日本へ帰ったときに何かしらの違和感を覚えたということは、考え方が変わっていたということなのかもしれませんね。改めてどう変わったかと考えたことはありませんでしたが、今から思うとちょっと開き直った自分が生まれていたのかもしれません。開き直ったというか、図太くなったというか(笑)。そういう自分でも知らなかった部分を実は密かに持っていて、それが段々と外に出てきたのかもしれませんね。

その後、TAFEでデザインを学び、卒業後の93年に自身のお店を持たれますね。当時は順調にステップを踏まれた感じだったのでしょうか?

TAFEで服飾の基本的な技術は習得できたのですが、卒業後すぐに自身のビジネスを始めたため、経営と生産の分野でわからないことがたくさん出てきてしまい、お店と並行して今度はTAFEの夜間学校に2年間通い、〝生産管理〟を学びました。当時は学校に通いながら、お店を切り盛りして、さらに副業としてツアーガイドもやっていましたので、本当に寝る暇もないほど忙しかったです。

副業をしていたというのはお金を工面するためですよね?

その通りです。1年目は少し蓄えがあったので何とかなったのですが、2年目はさらに厳しくて家賃も払えないほどでした。3年目から徐々にお店が雑誌に載るようになって、お客さんに知られるようになりました。雑誌に載るというのはプロモーションになりますので随分助かりました。今思うと軌道に乗るまでけっこうかかりましたね。当時はヘトヘトになるくらいエネルギーを使い切りました。落ち込むこともありましたし、何度やめようと思ったか数え切れないくらいです。

苦しい時期を乗り越えて、99年にパリコレクションでデビューされました。当時のことは今でも覚えていらっしゃいますか?

初めはホテルの一室のリビングルームを使って、3日間ほど販売しました。当時はハウスモデルもいなかったのですが、バイヤーの方も何人か来てくれました。実は前年の98年にもパリコレには参加しているんです。当時イタリアのミラノの方から、「あなたの服を買いたいんだがパリには来ないのか?」と言われたのを受け、下見を兼ねてサンプル商品を10枚だけ持ってフランスに渡ったんです。現地でその方に商品を見せたら、「全部買い取りたい」と言ってキャッシュで払っていただきました。99年以降は、オーダーを取って、生産をして、納品をするという形で参加しています。

拠点をオーストラリアからヨーロッパなど他の地域に移すことを考えることはありますか?

日本、ヨーロッパに関わらず海外という部分で、面白い仕事ができる機会があればしばらく滞在するかもしれませんね。今度、オーストラリアン・バレエのコスチュームを担当させて頂くのですが、そういった風に海外で興味深い仕事のお話が頂けるようなら、現地に赴いて、数ヶ月、あるいは1年とか滞在するということはあってもいいかなと思います。

以前、カンタス航空のファーストクラスで使用されるアメニティ・セット(パジャマ、アイマスクなど)をデザインされていますよね?

はい。そういった形で面白いお話を頂けたら、今後も時間の許す限り、シーズン毎のコレクション以外にも是非どんどんやっていきたいと考えています。

現在、日本のワーホリメーカーの方々と触れ合う機会はありますか?

日本でファッション学校を卒業して、ワーホリでこちらに来ている方から連絡を頂くことがあって、こっちとしても人手がほしいので、パートで仕事のお手伝いをお願いしたりします。現在もひとり、ワーホリの日本人の方に働いてもらっているんです。

ワーホリの大先輩として、現在がんばっているワーホリメーカーの方々にアドバイスをいただけますか?

人それぞれのビジョンがあると思うので一概には言えないのですが、人生の中で決断や選択をしなくてはいけないときは、目先の損得よりも自身の心の奥底に感じられる気持ちを尊重するのが一番大切じゃないかなと思います。そうすることで将来的には、自分自身納得のいく仕事にも就くことができ、長続きもするのではないでしょうか。失敗することもあるでしょうが、それをどう捉えるかというのは本人次第です。失敗することがあっても、〝また勉強させてもらった〟という風に考えれば、肯定的なものの見方ができるんじゃないでしょうか。それに上手くいかないときでも、自分自身がした決断であれば、納得できるはずですから。

五十川 明
1964年生まれ。京都市出身。佛教大学卒。86年、ワーキングホリデービザで来豪。一時帰国後、再来豪してTAFEで服飾を学ぶ。93年、シドニー東部ウラーラに「akira」レーベルのブティックをオープン。99年、オーストラリアン・ファッション・ウィークの「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」受賞、パリ・コレクションにデビュー。05年、Marie Claireの「ベスト・オーストラリアン・デザイナー」受賞。現在、オーストラリア国内に4店の直営ブティックを持つほか、日本、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカなど世界12カ国でコレクションを販売している。 WEB:http://www.akira.com.au


 

CHEERS 2010年07月号掲載

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