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終わりがないものに挑戦し続けるからおもしろい 日本体操の金メダリスト 塚原直也選手 

塚原直也選手

08/12/2011

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2004年アテネ五輪、体操・日本男子団体総合・金メダルを獲得―。それはかつて “日本のお家芸”と言われていた体操競技が低迷期に入ってから、実に28年ぶりの快挙だった。その低迷期に、我を失うことなく着実に努力を積み重ね、アテネの金メダル獲得に貢献した選手がいる。塚原直也選手、その人だ。体操界において新技「ツカハラ跳び」を生み出し、5つの金メダルを持つ父・光男さんと、メキシコ五輪で体操日本代表だった母・千恵子さんのもとに生まれた塚原選手。その重圧に屈することなく、自身も日本代表として3度の五輪出場を果たしてきた。現在はブリスベンに拠点を移し、経験に裏打ちされた確かな実力でオーストラリアにおいてトップの成績を打ち出し続けている。34歳という年齢を自覚しながらも、次なる“挑戦”として豪代表でのロンドン五輪出場を目指し、国籍変更を申請中だ。9月22日、キャンベラにて合宿中だった彼を訪ね、現在、過去、未来の飾らない心境を聞いた。

日々のトレーニング内容を教えていただけますか?

 合宿では、朝は筋力トレーニングで体を起こして、午後から種目の練習に入る感じです。普段は、僕は午後だけですね。もう若くないので省エネでやっていかないと(笑)。練習中はウォーミングアップに時間をかけます。体操って、やる時間の方が短いんです。休んでいる間はイメージトレーニングというか、今の演技はどうだったか、と思い返したりしています。

日本とオーストラリアで、練習方法や考え方などに違いはありますか?

 違いはあまり感じないですね。ただ、やはり英語でしゃべるので、脳の使い方が日本語と違うな、というのは感じます。英語って瞬発的にしゃべらないとダメじゃないですか。そういう反射的なものが発想にも活きるのかな、と。これまでと違う方向から見られるというか。

2009年、オーストラリアへの体操留学を決意したときのきっかけや思いを聞かせてください。

 日本で体操を始めて長くなってきて、マンネリ化のようなものを感じていたこともあり、環境を変えないと自分が成長できないかな、と考え出したんです。4度目の挑戦、北京五輪ではかなり頑張った結果として代表になれなかったので、精神的にも失望したというか。それで、何か変えよう、と。場所を移して世界大会に出ることになれば、自分としてもまた挑戦できるのではと思いました。

国としては、なぜオーストラリアを選んだのですか?

 父の大学の後輩がブリスベンにいて、国籍を日本からオーストラリアに変えて体操をやっていたんです。その人にお世話になってやってみよう、と。両親も、以前から「ずっと同じところでやっているのはよくない、外国へいったらどうだ」と言っていたので、反対はなく、大賛成という感じでしたね。

日本からオーストラリアに国籍を変える、ということにもご両親の反対はなかったのでしょうか?

 最初はびっくりしていましたね。そこまでするのか、みたいな感じでした。自分としては「体操を続けたい」という思いがあって、それならば国際試合に出たいなと。日本では朝日生命の広報部に所属していて、試合に出ることで広報する、ということが自分の仕事になっています。その点からも国際試合に出たいと思いました。

9月17日の豪州代表選考会での優勝をはじめ、オーストラリアでは以前から継続してトップの成績を打ち出されていますね。

 ありがとうございます。が、まだこちらでは、体操のレベルが開発されていないのだと思います。まず、体操をやる人の母数が少ないし、環境的に体操ができる場所も少ない。日本では高校や大学に体操部があり、チームで競う形ができているので、自然とレベルも向上しているのだと思います。そういうシステムがこちらにはないので、将来変えていきたいですね。

心身ともによい状態をキープする秘訣みたいなものはありますか?

 秘訣ですか…(笑)。 気をつけていることは、何でも好奇心をもつことです。例えば、今のところは英語を覚えなきゃ、ということで。他の選手に指導したりもしているので、思っていることを伝えられないときはもどかしいですね。

スポーツ選手は食生活が大切、というイメージがありますが、オーストラリアでの食生活はどのようなものですか?

 成長期はすごく大切だと思いますけど、今は栄養バランスのよい食事をする、暴飲暴食をしない、などの結構アバウトなものです。ホームステイ先で夜だけ作ってもらっていて、朝、昼はスーパーで何か買ってきて自分でまかなっています。

こちらで何かお気に入りの料理はありますか?

 カンガルーの肉とかは食べましたけど。普通でしたね(笑)。あとは、キッシュが美味しい、ってこの前ホームステイ先で教えてもらったので試してみたいです。

オーストラリアの生活で何か苦労したことなどはありますか?

 僕は性格的に、結構のんびりしているので、こっちの選手が失敗したときに突然マットを蹴ったりと、気性が激しくなるところにすごく違いを感じました。 愛情がありすぎているのか、ただ単に短気なのか、どうなのかと。

オフの日はどう過ごしていますか?

 たまにゴールドコーストに行きます。でも車で一時間くらいかかるので、試合が近いときはだいたい家で、昼まで寝ていたりしますね。そしたらほんと、晩御飯が早くて、一日がすぐ終わります(笑)。基本的には練習メインで生活をしている感じです。

日本では後進の指導にあたっていると伺いましたが、オーストラリアでもすでに指導をされているのですか?

 はい。10月の世界選手権はオリンピックの予選にもなっていて、オーストラリア・男子がオリンピックに行けるかどうかの瀬戸際なので、今は男子のチームメイトをメインに教えています。

その世界選手権ですが、塚原選手はトップ成績でありながら、国籍取得が間に合わなかったために、代表に選ばれていないと伺いました。試合直前まで選手入れ替えの可能性もあるとのことですが、現在の率直なお気持ちはどうですか。(※9月22日時点)

 申請はすでに出していて、返答待ちの状態なので、自分でも「どうなるんだろう?」という感じですね。とりあえず出ることになった場合にも備えて練習はしています。まあ、僕は体操ができていれば苦にならないというか、それだけで楽しいんです。あまり考えないようにしてやるのが秘訣ですかね。考えすぎちゃうとストレスになってしまうので。

日本ではアトランタ、シドニー、アテネと3大会連続でオリンピックに出場されていますが、いわゆる“日本体操界の低迷期”と言われる中でプレッシャーなどはありましたか?

 そうですね…。その時期は低迷期というのも知っていましたし、そういうものは薄々感じていました。でも、自分ががんばればなんとかなる、と思っていました。

ロンドン五輪出場が決まれば4度目の五輪となりますが、これまでの五輪と比較して気持ちの変化などありますか?

 変化はあまり感じないです。ただ今は若い選手が多くて僕は年配の方なので、“それでも若いトップ選手と同じようにやっていけるように挑戦する”という変化はありますね。

常に「挑戦し続ける」というのはかっこいいですね。

 好きだからできること、っていうのはあると思います。

父である光男さんは指導者として東京で体操教室を運営されていますが、直也選手の将来像、長期的な夢について教えてください。

 将来的には、コーチになりたいと思っています。自分は選手としては不器用で、天才的な素質があって、というタイプではないんです。努力、努力でやってきて、本当のトップレベルまではなかなかいけない感じで。金メダルはとりましたが、個人的な能力として見たら、周りには素質ある選手がいっぱいいます。だからこそコーチとしては「超一流」までいけるようにしたいな、と。

「超一流のコーチ」、ですか。

 性格的にもコーチ向きだと思うんですよ。怖がりというか、慎重というか。今は“指導をしながら現役を続けている”ので、この貴重な経験を生かして、コーチでは“神の領域”にいけたらと思いますね。自分は技を体得するまでの過程が人より多いんです。練習中も、将来コーチになるとしたら、と考えて、細かいところまで意識してやっています。

ズバリ、塚原選手の思う体操競技の魅力とは何でしょうか?

 終わりがない、ということ。果てしないというか、エンドレスです。体操に限らず、何事も追求しだしたら終わりがないですよね。本来、自然界には自分の寿命しかり、必ず終わりがあるじゃないですか。でもその中で、「終わりがないものに挑戦する」、そこに魅力があるんだと思います。憧れや、無いものねだりみたいな、そういうことを本能的に感じてるのかもしれないです。

―上記のインタビューの後、10月7日~16日に東京で世界体操選手権が開催された。国籍申請の都合で塚原選手は出場できず、結果としてオーストラリア団体での五輪出場の可能性がなくなった。個人としての五輪出場の可能性はわずかに残されているというその状況下、追加取材として今の気持ちを聞いた取材班に、塚原選手は答えてくれた。

 団体に関しては、オーストラリアのメンバーは大変良い試合をしてくれましたが大体予想通り、やはり駄目だったので残念です。五輪の個人出場もおそらく厳しいので、あとは天に任せる感じで待ちます。

どんな状況下にあっても、必要以上に考えて悩みこむのではなく、終わりがないこの大好きな「体操」というフィールドで、動じることなく次の目標に挑戦し続けるのみ。選手として、指導者として、ステージを変えながら体操界を率いてゆく頼もしい存在がそこにはあった。

塚原 直也(つかはら なおや)
1977年6月25日生まれ。34歳。東京都出身。跳馬で「ツカハラ跳び」、鉄棒では「月面宙返り」の新技を生み出し、5つの金メダルを獲得した父・光男さんと、メキシコオリンピックで女子体操競技日本代表であった母・千恵子さんのもとに生まれる。11歳から本格的に体操を始め、高校2年生からインターハイで2連覇。明治大学を経て、朝日生命に所属。1996年から2000年まで全日本選手権を5連覇。五輪にはアトランタ大会から3度連続で出場し、2004年のアテネ五輪では男子団体総合で金メダルを獲得。2009年からオーストラリアに体操留学。後進の指導を行いつつ、選手としてもオーストラリア国籍取得を前提に、2012年ロンドン五輪への出場を目指す。


 

CHEERS 2011年11月号掲載

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