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風雲サムライギタリスト シドニー音楽街道を行く!


「祝インダストリアル・コンプレックス アルバムリリース前夜レコーディングメモ1」

05/08/2011

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しからずば掻き鳴らして御免!20
「祝インダストリアル・コンプレックス アルバムリリース前夜レコーディングメモ1」

今年の冬は寒さ格別身に堪えましたが、皆さんの体調は如何ございましたでしょうか? とりもなおさず、今月より久々にお届けいたしますこの企画、熱く音楽を語る「しからずば掻き鳴らして御免!」。つきまして不肖、私サムライギターリスト、2作目ソロアルバム、「Industrial Complex/Rising Sun II / J T West Electric Solo」のリリースに先立ち、本誌読者の皆様には特別に4年間これまでのレコーディング裏話を披露させて頂きます。♪あ~青春は~幻か~、あゝ4年越し~涙の完成♪それにしても、ほんまに疲れました~、トホホ(涙)。

2001年の「Rising Sun/J T West Acoustic Solo」の発表から実に9年越しとなる、今回リリースの「Industrial Complex / Rising Sun II」ですが、アルバム内の数あるオリジナル曲中、前作に従いカバー曲を1曲挿入しました(前作は「Amazing Grace」と「あかとんぼ」の2曲収録でしたが、今回のカバーは1曲のみになります)。して、その選曲に祭し、当初「全体の雰囲気に沿うものを」という考えは無論有ったのですが、結局最後は「ずっと昔から録ってみたかった曲」への想いが勝り、そうして選んだのが連続テレビドラマのオープニングテーマ曲、「『俺たちの勲章』のテーマ」でした。実際、録り終えた今になって考えてみると、この曲がギター曲としてはまさに相応しい、正解な選曲だったと自負いたします。人の心の中には、自分を励まし慰め奮い立たせ、いつも傍に居て支えてくれる「歌」というものがあると思うのですが、読者の皆さんはさて、そんな「自分だけの歌」をお持ちでしょうか?

 ここでテーマ曲の大元である、ドラマ「俺たちの勲章」(日本テレビ)について少々説明させて頂きます。このドラマは夜8時枠の2クール弱(半年弱)で1975年に放映され、その年の10月からやはり日テレで放映が始まった「俺たちの旅」(中村雅俊、田中健、秋野太作出演)、続く「俺たちの朝」(勝野洋、長谷直美、小倉一郎出演)、そしてその後の「俺たちの祭り」と当時、所謂「俺たちシリーズ3部作」は幅広い層に人気を博しました。中村雅俊の存在からか、「俺たちの勲章」も「俺たちシリーズ」と同一線上の青春ドラマに思われがちですが、それが実際は全く関連しない内容なのです。というのは、「俺たちシリーズ3部作」に共通して言えることは、何れも下宿や友人先に居候する大学生(或いは当時のフリーター)が社会に巣立つ前、未来に不安する若者たちの葛藤が話の骨子であるのに対し、「俺たちの勲章」は中村と相対する松田優作というイメージもあってか、粗野で退廃的な社会の陰の部分を押し出した点にあるからなのです。

基本的にストーリーは、中野ふんする松田優作と、後輩でルーキーの五十嵐(通称アラシ、中村雅俊)の若い二人の刑事が、異国情緒香る港町・横浜の相模警察署において、係長に見放されつつも喫茶スナックを経営するママやケンジらの応援を得ながら、独自のやり方で捜査を繰り広げ犯人検挙に結ぶ、要約するとそういった内容です。70年代は刑事ドラマ全盛の時代で、例えば「太陽にほえろ」(日テレ)や「夜明けの刑事」(石立鉄男、坂上二郎、鈴木ヒロミツ出演、TBS)、「Gメン75」(丹波哲郎、夏木陽介出演、TBS)などの大御所番組が挙げられますが、それぞれがそれなりに個性はあって面白かったものの、後半は話の展開がマンネリ化し食傷気味になり、話半分でチャンネルを変えたことを今でも覚えています。初めて「俺たちの勲章」を目にした時は、既に再放送でしたから私自身オンタイム世代ではないのですが、オープニングの曲と共に繰られるスチールの、横浜の寂れたインダストリアルな風景といい、毎回のストーリーそしてその顛末といい、印象深くも小学4年の私には強烈に突き刺さるものがありました。また当時のドラマエッセンスには、人間の生き様や教訓めいたものがそれなりに介在したものですが、「俺たちの勲章」はそれ以上にどこか斜に構えるような暗さ、即ち、誠実に生きようとする人が容赦無く踏みにじられ、或いは、誠実そうな人間が潜在悪を持つばかりに掌を返すが如く豹変し、犯罪に手を染め最後は取り返しの付かない最悪な事態を招く、よってもって教訓にすらなり難いやるせなさを噛み締めながら、中野とアラシが思い知らされたかのようにハマの波止場を歩く、そんな描写が劇中の随所に覗えるのです。

ところで、このドラマのテーマ曲についていつも思うことは、劇伴用インストロメンタル曲としてトランザムがアレンジしたものが、その実、原曲を超越するほど別曲のようにまったく素晴らしくなってしまったという点なのですが、曲構成にしても演奏力の高さという点においても、往年のスタジオミュージシャンの力量が如何なく発揮された、単純明快かつ磨き上げられた輝きを持つ、もうこれ以上の名編曲は無いと絶賛に値します。確かに、ドラマの内容も曲の良さに拍車を掛けたのかもしれませんが、逆説で、劇伴曲のできがあまりにも素晴らし過ぎたからドラマもさらに良くなった、とも言えるのかもしれません。いずれにせよ、この曲を私のアルバムに加えると決定した時点で、私の中で静かな闘いが始まりました。というのは、「あのトランザムを超越するアレンジをやってのけよう!」といった大それた挑戦では無く、あのトランザムに最大の敬意を表しつつ、先ず、マイクロミリセコンドの精密さを要求する完璧なコピー譜を、耳コピ(音源を何度も聴いて楽譜に落す作業)でもって作ろうというものでした。耳コピ作業については、他のミュージシャンの急を要するレコーディングセッション時や、ギターレッスンでは普段から生徒たちが持ってくるMP3音源落し等と1億回はやらされましたので、朝メシ前とまでは言わぬまでもそれなりの自信はあったのですが、楽器が入り組むハーモニーの部分や、タンバリンのアクセントの正確な一音までとなると、30年以上慣れ親しんだ曲とは言え(音源そのものが古いということもあり)、完璧に仕上げる段にはやはり聴き逃していた部分も多く、「音楽を分析して聴く耳を持つことの重要性」を普段は生徒たちに口うるさく言う私みずからが、実に反省させられる瞬間でもあったのです。

次に、問題の編曲です。曲を仕上げる上で、私がいつも最大に労力を割くのはイントロ部分ですが、トランザムバージョンでは8小節のピアノの頑健なメロディーが存在するので、これには絶対に手を加えたくなく、それを回避し曲をよりドラマチックに盛り上げるべく、イントロの前に小プロローグとなるサブイントロなるものを設けました。これを作る上で、イメージとして日本的な雰囲気のする「音」がどうしても欲しく、さてどうしたものか、ドラマのオープニングの絵に近づけるべきか?とも散々悩んだのですが、この際、ドラマに固執せず一切の先入観を捨て、製作者なる私が曲から感じるアイデンティティーや、曲そのものに対する主観を素直にぶつけてみるべきかと思い、今だ忘れじ田舎の夏の黄昏をヒントに、ストーリートラックを仕上げました。曲の本編については、1コーラスのみのテレビバージョンを2コーラスに増設延長し、ついでに我がギタースクールの優秀生徒数人を実地教育の名目でゲスト参加させ、後半の盛り上がりでは講師の私とブルースバトルで掛け合うという、ギターならではの「遊び」なるパートも作ってみました。このテイクが結果、彼らにとって記念すべき履歴レコーディングになったのですが、初回収録から先月の最終テイクまでの3年間、私が招聘したセッションミュージシャンや生徒たちそして、コーラスの応援では急遽参加頂いた方々と、多彩な顔ぶれの名が分厚くなった収録作業日誌に連なり、今は一人感慨に耽る想いです。自分だけの心の歌…。辛い時も穏やかな時も、いつも一緒だった。自分だけの心の歌…、皆さんは心にそんな歌をお持ちですか?


●順一T.ウエスト(じゅんいち たかばやし うえすと)
ギター講師、ソロギターリスト。過去15年に渡り、延べ400人以上の生徒を指導。1999年より、シドニーにて「サムライギター教室」を開講。日本での経歴は、神戸を中心にロックバンドのリードギターリストとしてセッションワーク等をこなし、現在、ソングライター、創作家として活動中。2001年、初のソロギターアルバム『Rising Sun/ライジングサン』をリリースし、同年、ギター教室を中心とした総合音楽業務を内容とする、サムライ・ミュージック・エンターテイメント社を発足。同社代表取締役。

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