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娯楽記事

プロレスの逆襲


第306回 昭和プロレスの終焉

16/04/2023

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 昨年開催されたサッカーワールドカップの中継では一部の地上波だけでなく、インターネットTVの「ABEMA」がまさかの全試合放送という驚きの快挙を成し遂げた。本田圭佑のわかりやすい解説も話題となり、これまでABEMAの名前すら知らなかった層にもその存在感を訴求することができたのだろう。運営元であるサイバーエージェントの藤田社長は、あるインタビューで「全試合放送権の金額が思ったよりも安価だった」と発言して物議を醸した。地上波TV局各社が忸怩たる思いをしていることは想像に容易い。

 最近、スポーツ中継の図式に明らかな変化が見られるようになった。ボクシングの世界マッチなどはAmazonのPrimeビデオが配信することが増えたし、昨年末の井上尚弥の世界4団体王座統一戦はNTTドコモの「dTV」で配信された。地上波TVが喉から手が出るほど欲しいコンテンツが、次々とインターネットTVへと移行している。TV局にしてみれば広告収入だけでは放映権を買うのに必要な資金が集まっていない状況を露呈している格好。なぜ必要な広告収入を確保できないのか?  それは極めて明快で、TVの「媒体価値」が低下しているから。広告スポンサーにしてみれば、かつてのように巨額の広告費をTVに投下していれば良かった時代はとうに過ぎ去り、インターネットやSNSを含めたさまざまなコミュニケーションツールを運用しなければ、消費者に情報を伝えることができないのである。ちなみに2月末から開催される野球のワールドベースボールクラシック、通称「WBC」はPrimeビデオでの配信が決まっている(地上波はTBSとテレビ朝日とのこと)。

決められた時間に、モニターが設置されている決められた場所に座って何かを視聴するという行動スタイルは、もはや過ぎた時代の中の思い出に変わってしまったのだろう。技術の進化と時代の変化である。

 プロレスはテレビの成長とともに歩んできたと言っても過言ではない。力道山の時代には街頭テレビに人々が集まり、彼が外国人レスラーをなぎ倒す姿に沸いた。猪木、馬場の時代においては金曜8時と土曜8時というゴールデンタイムにそれぞれの団体の試合が放送され、お茶の間にプロレスを届けていた。しかし平成に入り、プロレス人気に翳りが出始めるとTV局は総合格闘技の試合を放送するようになる。プロレスはかろうじて深夜でひっそりと放送される程度の扱いになった。テレビとプロレスの二人三脚時代の終わりの始まり。

そしてインターネットが登場する。人々の生活は劇的に変化を続けていき、その中でテレビや雑誌、新聞といったメディアの花形たちは、その存在感を失っていくことになる。現在のような生活スタイルを30年前に予見できた者がどれほどいただろう。きっとテレビはメディアの王様であり続け、皆が同じ時間に同じ番組を観ている。そう思っていた人が圧倒的多数だった。しかし事実は小説より奇なり。目の前のスマホが、ただすべてを物語っている。

先日行われた武藤敬司の引退試合はABEMAのペイパービューで配信された。会場にゲストとして登場した古舘伊知郎が武藤に捧げる詩の中で、武藤の引退が「昭和プロレスの終焉なり」と例えた。まさにその通りだと思う。テレビとともに成長を続けた昭和と平成プロレスで活躍した武藤の引退試合を、奇しくもネットTVが届けるのだから…。武藤は試合後の会見で、古舘の言葉にこう述べた。「これから新しいプロレスが始まるのだと思う」と。

 新しいプロレスは既に始まっている。そこにはTVの居場所がないだけなのかもしれない。

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