08/01/2020
10月21日から1月24日までの期間、ジャパンファンデーションにて開催されるエキシビジョン『RETROHORROR』に、ホラー漫画の巨匠である御茶漬海苔先生が登場し、トーク&ワークショップを行った。イベントを終えたばかりの先生へ単独インタビュー。
Q 今回、シドニーを訪れるのは初めてですか?
初めてです。シドニーの街並みを歩きましたが、雰囲気的にオーストラリア人はみんな優しそうな方が多いですね。昨日はオペラハウスに行ってお食事をしました。綺麗で道路も広いし、いい所ですね。
Q御茶漬海苔という名前の由来とは?
一般的には「御茶漬海苔が好きだから」ということになっていますが、実は違う漫画家がつけてた名前なのです。で、その名前いいねって言っていたら譲ってくれました。
Qではその方は現在違う名前で漫画を描かれているのでしょうか。
その方はもう漫画家ではなくなってしまいました。彼が辞めるタイミングで襲名しました。実際に名乗ってみると御茶漬海苔っていうペンネームは、ギャグ漫画家っていうイメージが強くて。なので当初は「ギャグ漫画家ですか?」「いや、真逆の怖い漫画家だよ」というやり取りが多かったですね。もう35年くらいやってるのでいまでは聞かれることも減りましたが。
Q35年てすごいですね。
なんとか切らさずに。締め切りに追われながらやっています。
Qお察しします。確かに御茶漬海苔という名前と絵とのギャップがありますね。では先生の漫画との出会いとは?
小学校のときですね。その頃、貸本屋っていうのがありまして、漫画を読みにそこへ通っていました。その後、本屋さんができまして、サンデーとかマガジンとかを売っていたのですが。当時、小沢さとるさんが描いた『サブマリン707』という潜水艦の漫画に一目惚れをして、それを買って見本にして自分で漫画を描き出したのがきっかけですね。ひとりっ子で邪魔する人がいないんで、集中して描けたんですね。
「惨劇館」第10巻©御茶漬海苔、1994。
Qなるほど。部屋にこもってコツコツやるタイプだったんですね? その頃から漫画家になるという思いがあったのですか?
漠然と「なりたいな」という思いはありました。中学に入るとジャンプが発売されて、ジャンプで応募していた手塚賞に送るために3冊ほど漫画を描きました。小学校のころは潜水艦ものばかり描いていたんですけど、中学校になって『地球最後の日』とか、『氷河期』とか、そんな漫画を描いていましたね。
Qスケールがでかいですね。それは世には出ず、いまとなってはお宝ですね。
どこ行ったんでしょうね、あの漫画。
Qプロの漫画家を具体的に意識されてからは、どなたかに弟子入りされましたか?
そうですね。全然ホラーとは関係ない先生なのですが、チャンピオンで描いていた富士鷹なすび先生のところで1年くらい学びました。でも先生が漫画を描かなくなったので、その後、『まいっちんぐマチコ先生』を書いていた、えびはら武司先生のもとに弟子入りしました。
Q藤子不二雄先生の弟子の弟子ですね。代々継承していく技術というのはあるものなのでしょうか?
私はホラー漫画家になったので、あんまりホラー漫画に生きる技術の継承というものはなかったように思いますけどね。ベタ(指定された範囲を黒で塗り潰すこと)とか、基礎技術的なことはやらせてもらいました。スタッフが3、4人いたので、一番下で描けるところだけ描きましょうっていう感じでやっていましたね。
Qその後、独立されたんですか?
そうですね。大学の4年生で独立しました。実家が金物屋で、家業を継ぐプレッシャーがあったのですが、いよいよ4年生で後がなくなり、とりあえず版下屋さんに勤めました。パソコンのない時代だったので写植を綺麗に張って車のパンフレットを作ったり。それをまた、英語やドイツ語に直していました。
Qそこから、ホラー漫画を描くことになったのは?
ホラー漫画のデビューは、朝日ソノラマという出版社からです。最初SFで『魔王グール』っていうのを描いていたんですよ。そうしたら、『ハロウィン』というホラー系の雑誌が、同出版社から出ることになりまして。最初は楳図かずお先生が抜擢されたのですが、ちょっと描けなくなるということで、その代わりに私に声がかかりました。そこで『ブラインド』という漫画を8ページ描いたら評判が良く、また次の月に依頼を受けました。次に『バスルーム』という作品を描きましたら、それも評判が良くて、「じゃあ連載しますか」という感じで、『惨劇館』というタイトルで月間連載が始まりました。
©御茶漬海苔
「暗黒辞典」第2巻©御茶漬海苔、1996(頃)。
「惨劇館」第10巻©御茶漬海苔、1994。
Qトントン拍子ですね。ホラー漫画のインスピレーションとか、どういったときに、アイデアが浮かぶものなのでしょうか?
いつも怖いこと考えちゃいけないですからね。なんかね、いつも怖いこととか考えてると疲れますから。まあ例えば、ドライブとか行きますよね。そうすると、突然、窓ガラス割れるんじゃないかと、ブレーキ効かなかったらどうするの?とか、とりあえず危ない方に考えてみますね。
Qなるほど、じゃあ日常の生活のなかから崩していく感じですね。
そうですね。危ない方に崩していく感じですね。
Q漫画家一本でやっていこうと決めたときに、不安要素みたいなものはありましたか?
あまりなかったですけどね。当時22歳くらいでしたが、なってしまえばなんとかなるだろうっていう気持ちでしたね。
Qそこから35年て凄いですね。漫画家はどのくらいのペースで働くんでしょうか。
仕事があるときは、週に3本くらいなので、週で24ページくらいですね。月刊誌もあったので忙しいときは、月に100ページは超えていました。当時は家からまったく出なかったですね。しかしどんどん忙しくなってきたところで、日本ではいろいろな猟奇的な事件があったじゃないですか。東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件とか…。あるときに電話がかかってきて、ホラー雑誌がそういった犯罪者を助長しているからマズイということになり、だんだん雑誌自体が衰退していったんです。
Qなるほど。そういう社会現象がきっかけで、雑誌自体がなくなったりするんですね。現在はオンラインの仕事に移行している感じでしょうか。
オンラインの仕事もやっていますけどね。一方で海外での需要が増えてきましたね。この前も、ヨーロッパ系の出版社から連絡が来て、ヨーロッパで「惨劇館」を発売してもらいました。台湾も需要があります。
Q一時期は映画監督もされていましたね。
私の作品の5タイトルは他の監督さんが撮ってくれたのですが、3タイトルは自分で監督をやらせてもらって、チームを組んで撮影に取り組みました。先日、日本のインディーズムービーのコンペってのがあったので応募したら、短編ムービーのカテゴリーで副賞をいただきました。それをきっかけに映画監督にも興味が出ていますね。
Q平面のものと動くものとで、表現が違うものなのでしょうか。
どうなんですかね。そんなに違わないかな。もともと漫画自体が映画っぽいという評価は以前から受けていましたね。
Q絵は描けるけど、字が書けなくなったていう話を聞いたのですが。
ゆっくりと書けば書けますけど、早く描くと字が小さくなってしまうんですよ。月間「スピカ」の連載が終わったときに、脳をやったみたいで…。調べたら脳梗塞5箇所くらいあるようでした。それでも絵は描けましたが、まあそのショックで字が小さくなってしまうんです。ただ、小さくなってもね、字は字だからね。自分では読めますから、編集になったときに説明できれば問題はありません。
Q身体にストレスがかかる職業なんですね。
そうですね、常に追われたりしていますから。
Qお察しします。今後の予定で何か決まってることがあれば。
そうですね。年始から中国の大学で講義をする予定があります。あとは、オンラインの漫画を月に30ページくらいを描き続けていきますね。
Q最近、読む媒体も電子書籍などデジタルの波が来ていますが、作業自体もデジタル化しているのでしょうか。
一時期パソコンを買って試みたのですが、面倒くさくなってやめました。いまでも手書きの原稿を編集に渡すのですが、私一人くらいなもんで、「ほかの漫画家はパソコンで描いてますよ」って言われますね。ただ、ペンタブで描くと原稿残りませんから、停電がおきたら、読めなくなっちゃうって思うんですよね。
Q味があっていいですね。今、日本の漫画の文化が世界ですごく評価されているというか、それをどういう風に感じていますか?
フランスの漫画はA4サイズに4色で描かれたり、アメリカの漫画はペラペラの紙に描かれていたりと、世界にはさまざまな漫画があるなかで、日本の文化が世界に認められているってとてもいいんじゃないですか。
RETRO HORROR:
Supernatural and the Occult in Postwar Japanese Manga
戦後の日本で次々と登場しはじめたホラー漫画を、1960年から1990年代の時代に分けて展示。ムロタニツネ象、日野日出志、御茶漬海苔のオリジナルワークや複製された作品などが70点展示される。また期間中は80を超える日本の怪奇漫画(英語&日本語)を楽しめる漫画ラウンジも設置される。
日時:現在開催中 1月24日まで/月~木:10am–6pm/金:10am–6pm
会場:The Japan Foundation,Level 4, Central Park,28 Broadway, Chippendale
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